大いなる奇想にあふれた少年漫画のウラ王者
更新日:2011/9/5
ゲゲゲの鬼太郎 1
ハード : PC/iPhone/iPad/Android | 発売元 : POPコミックス |
ジャンル:コミック | 購入元:電子貸本Renta! |
著者名:水木しげる | 価格:105円 |
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健全で朗らかな少年漫画の王者が「ドラえもん」だとすれば、少し暗くて幻想的な少年漫画のウラ王者は「ゲゲゲの鬼太郎」に違いない。
冥界への旅行があったり、恐ろしい病におかされたり、グロテスクな怪物が登場したり、「ゲゲゲの鬼太郎」はどこかほの暗い場所へ僕たちの心を引っ張っていこうとする。そこはこの世の経済原則や、明るいあしたを築くために頑張る社会性が、げんなりとヘタッた後ろ向きの世界だ。
でもそれは、どういうわけかある「安らぎ」みたいなものを与えてくれる場所でもある。死にものぐるいになっていい大学へ入らなくちゃいけない努力が、なんとなく余計なことの世界。ダラッとして一日寝転がっていても生きてることに変わりはないような気がしてくる世間。鬼太郎がいつまでもいつまでも読み継がれるのは、たぶんそのせいなのである。
文庫の鬼太郎にはちくま文庫版もあるのだけれど、この電子書籍版にはそちらに収録されていないエピソードが載っている。第一巻冒頭の「鬼太郎の誕生」がそれ。
血液銀行に売られた血の中に「幽霊の血」が混ざっていたらしく、輸血された患者が幽霊になってしまった。社員の水木は、供血者を探すことになるのだが、しるされた住所はなんと水木自身の家ではないか。実は水木家の裏に荒れ寺があり、そこには幽霊族の生き残り夫婦が隠れ住んでいた。妊娠した妻が血を売ったのだった。八ヶ月後、夫婦は餓死している。哀れに思い埋葬してやった墓の中から赤ん坊が這い出てくる。腐敗した父親の目玉だけが蘇生する。
鬼太郎が幽霊族の最後のひとりであることや、目玉オヤジの誕生(?)の謎も明かされるというスペシャルなお話というわけ。
こんなことをいえば年齢がバレバレだが、「ゲゲゲの鬼太郎」をリアルタイムで読んでいた僕は毎週読みふけったものだ。鬼太郎が見せるさまざまな返信の奇想、手だけになったり、チャンチャンコに包まれた立方体になっちゃったり、木になって地面に根をはやしちゃったり、いろんな武器を出して敵と戦ったりするより数層倍不可思議の物語の展開に、妄想を遊ばせるのがたまらなかったんだと思う。だから僕は藤子F不二雄派じゃなくて、断然、水木しげる派なのだ。
幽霊の血を売ったのは廃寺に住む鬼太郎の両親だった
鬼太郎は墓場から這い出してきた
腐敗した目玉が目玉オヤジになった
時には鬼太郎は手だけの姿になり、水木の奇想はますます冴えわたる
チャンチャンコに包まれた箱みたいな形で闘うことも
妖怪の造形の不気味さは、なんだかヒエロニムス・ボッスさえ彷彿とさせる
鬼太郎の手足がこわばり地に根をはやし、木になってしまう
祖先の霊毛で編んだというチャンチャンコはもう一人の主人公だ
油断していると人間は得体の知れぬ冥界へ旅出されてしまう