北方謙三・伝説の剣豪小説が復活!臆病な青年が「父を斬る」ため過酷な旅に出る。「日向景一郎シリーズ」第1弾【書評】
PR 更新日:2025/2/3

不朽の名作が新装版となり、5カ月連続で刊行されることが決まった。
第1弾である『風樹の剣 日向景一郎シリーズ 1 <新装版>』(北方謙三/双葉社)は、色あせない魅力で今なお読者を夢中にさせる剣豪小説だ。
時は江戸時代。祖父の日向将監(ひなた・しょうげん)に連れられ、諸国を遍歴し道場破りの旅をしていた孫の景一郎(けいいちろう)は、青林寺なる寺に居住していた。
祖父の将監は日向流を遣う凄腕の剣豪であったが、病に冒され余命いくばくもなく、かつての門弟であった芳円のもとで世話になっていたからだ。
18歳の景一郎は気弱に見える青年であり、真面目に鍛錬はするものの、真剣での命をかけた勝負を怖がっていた。そのため芳円は「祖父のような才能を持たない臆病者だ」と感じたが、一方で将監は「臆病さこそ、天に与えられた才能である」と語る。臆病だからこそ、強いのだと。
そんな折、謎の刺客たちが将監を襲う。彼らは日向森之助(ひなた・もりのすけ)――将監の息子であり、景一郎の父親の居場所を教えろと脅す。将監は神業のような剣技で刺客を倒すも、病により倒れてしまう。
残りの刺客を孫の景一郎が仕留める。景一郎にとってそれは、初めて人を殺した瞬間だった。
将監はそのまま息を引き取り、芳円は将監の刀と遺言を景一郎に託した。遺言は「父の森之助を斬れ」というもの。なぜかと理由を問う景一郎に、「そうしなければ、おまえの生きる場所がこの世にはないそうだ」と告げるのみ。
こうして景一郎の、自らの父親を殺すための血塗られた旅が始まるのだが――。
本作のストーリーラインは、いたってシンプルだ。「謎の刺客たちに命を狙われながら、父親を探し出すこと」。そのため景一郎は諸国をめぐり、様々な人物と出会い、壮絶な闘いを繰り返しながら剣豪として成長していく。
一方で、景一郎という人物像はどこか複雑に感じた。
気弱だが心優しい青年が「父親と謎の集団との因縁」に巻き込まれていく「悲劇的なヒーロー」なのかと思いきや、物語序盤で思わぬ「獣性」を見せられ、驚かされた。
また、父親を斬れと言われたことにも、強い意志で反発することなく流されるまま従っていたのに、一方で自らの欲求には善悪の判断なく忠実に行動するような人物にも思える。
丁寧で紳士然としている一面もあるが、どこか人間としての善性が欠けているような、それを本人も自覚しつつ、罪悪感はあるような無いような……。
本作が長きにわたり読まれ続けているのは、シンプルで惹き付けられるストーリーに加え、闇を持つ景一郎というキャラクターの奥深さなのかもしれない。
もう一つ。本作では性行為のシーンが度々登場する。その行為を景一郎は「女を殺す」と物騒な表現をし、「殺してほしい」と願う女もいる。なまめかしさよりも剣の立ち合いと同様の鬼気迫る緊張感があるのだが、性交という命を産むための「生」の象徴的な行為に、「死」の匂いが激しく漂うのも本作の複雑性の一つとして魅力を感じた。
さて、景一郎の旅はいつまで続くのか。彼の旅路を5カ月もの間追えることにワクワクしながら、第2巻を待ちたいと思う。
文=雨野裾