絶品ポトフに、幻のレモンパイかき氷…謎解きのヒントは料理にあり! 近藤史恵、深緑野分ら人気作家4名による「たべもの×ミステリ」アンソロジー【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/2/13

おいしい推理で謎解きを たべもの×ミステリ アンソロジー友井羊、矢崎存美、深緑野分近藤史恵/双葉社

おいしい推理で謎解きを たべもの×ミステリ アンソロジー』(友井羊、矢崎存美、深緑野分近藤史恵/双葉社)は、味わい深い料理と謎が登場する作品を集めたアンソロジーである。

 一作目『嘘つきなボン・ファム』は、ある女性編集者が職場で巻き込まれた事件を描いている。謎の解決を手助けしてくれるのは、彼女が惚れこんだスープ専門店の店主だ。ここでピンとくる方もいるかもしれないが、本作は『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズの一作品である。店主の麻野は、事件のストレスで体調がすぐれない女性を想い、絶品ポトフを提供する。このポトフの描写がほんとうに素晴らしく、読みながら想像するだけでおなかがすいた。野菜と肉の旨味を優しく詰め込んだポトフは、疲れた胃袋の心強い味方だ。

 二作目『レモンパイの夏』は、行方知れずとなった友人を探し求めてある夏、ある海に足を運んだ青年が主人公だ。青年はそこでなんと、しゃべって動くぶたのぬいぐるみと出会う。実は本作、長年人気を博す『ぶたぶた』シリーズの一作である。こころ優しく人の悩みに寄り添うぬいぐるみのぶたぶたを愛するファンも多い。本作では、海の家で限定販売されていた幻のレモンパイかき氷が、お悩み解決のヒントになる。海の情景と酸味が効いたかき氷、そしてコロナ禍という特殊な状況下にあった日々のことを思い浮かべると、なんとも言えない奥行きを感じられる物語である。

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 三作目『大雨とトマト』は、ある嵐の日、さびれた飲食店を訪れた少女を描いた物語だ。彼女はトマトが入ったサラダを注文する。なぜ、わざわざ嵐の日に彼女はトマトサラダを食べに来たのか。まるで舞台の1シーンのような美しい作品で、短時間かつ限られた空間で起こる人間ドラマを見事に描いている。意外性のある展開も見どころだ。ちなみに本作は、さまざまな少女の物語を集めた短編集『オーブランの少女』の収録作品でもある。『大雨とトマト』が好きな方には、そちらの短編集もおすすめだ。

 四作目『割り切れないチョコレート』は、一癖あるショコラティエの人間性に焦点をあてた、ほろ苦い大人の物語。本作はフレンチ・レストランのシェフが謎を解き明かす『ビストロ・パ・マル』シリーズの一作で、作中に登場するビストロの雰囲気やこだわりの料理も魅力的だ。中でも本作の主役となるチョコレートの描写にはうっとりしてしまう。口に入れてとろける瞬間を想像し、その優しい味わいを通じて作り手を想う経験を、自分でもしてみたいと思った。

 さて、皆さんはどの一品に惹かれただろうか。人気作家たちの手によって調理された物語たちは、いずれも味わい深く、余韻をしっかり残してくれる。アンソロジーだからこそ、この一冊の先に新たな書籍との出会いが待っているのもいい。お好みに合う謎と料理を、ぜひ見つけてほしい。

文=宿木雪樹

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