霜降り明星・せいや「いじめ加害者は“賢くなる”べき」15万部突破!手書きで書き上げた半自伝小説に込めた思いとは【インタビュー】
更新日:2025/2/20

最近、書店に積まれた本の中でひときわ減りの早い本がある。霜降り明星・せいやさんが半自伝小説として書き上げた初著書『人生を変えたコント』(ワニブックス)である。本作は、自身が高校時代に体験した「いじめ」の実態を赤裸々に激白しながら、軽妙なタッチと後半にかけて盛り上がる展開で、泣いて笑える物語としての精度を高めた秀作。作家としてのせいやさんの一面を覗くべく、インタビューを敢行した。
●受験勉強みたいに机に向かった
——発売約2ヶ月で売上げ15万部を超えるという快挙、おめでとうございます。発売後のイベントも大盛況だったようで、多くの反響を受けてどのように感じていますか?
せいやさん(以下、せいや):いや、嬉しいですね。僕はもう書き終わっているのに、本が命を持っているみたいに一人歩きしてくれて、なんかすげえな…って思いました。お笑いでもらう反響とはまた違って、ジワジワジワって口コミで広がる感じが面白いですね。
——ジワジワとした広がり、身の回りでも感じていらっしゃるんですね。
せいや:めっちゃ感じてますね。街中でも「本買いました」って声かけられるし。「買ったけどまだ読んでないんですよ」っていう人もおるから、これからまたいろんな人の感想聞けんねや、と。
——お笑いで面白いことを言ってバーっと笑いが起こる感じとは違って。
せいや:お笑いってやっぱり瞬間的な反響だし、YouTubeとかラジオとかいろいろやってますけど、それとも違う。本って、大げさな話、何十年先に誰かが手に取って初見で読むかもしれんって考えたら、出して良かったなと思います。

——YouTube「霜降り明星せいやのイニミニチャンネル」でも「ガチ作業動画」を配信されていましたが、編集者やライターに文章を依頼するのではなく、ご自身が手書きで執筆されたそうですね。それは、せいやさんからのオーダーだったのでしょうか。
せいや:忙しかったので、最初に僕が喋って、編集者さんが文字に起こすのがいちばんいいかなと思って。でも仕上がってきた原稿を読むと、言い回しが自分っぽくないとか、あるわけで。それをいちいち指摘して直すのもキリがないぞと。それで、自分で一回書いて、読書みたいに読んだものを、その場で打ち直してもらったら、いちばん気持ちが乗ったんですよね。自分の手で書いていると、その時のシーンが思い浮かびやすいというか。
——動画でも、手書きの時はお一人で書いているのがわかって、すごく集中されている様子でした。
せいや:脳みそに思い浮かんだことをそのままスピーディーに書くっていうのが、いちばんラグがなかったし、臨場感が出たんですよね。だから考え込む時間もなく、次のシーンはこうやろ、あいつはこう喋るやろ、っていうのがノータイムで浮かんで。バーッと書いて終わり。かなり珍しいやり方らしいですけど。
——執筆はサクサク進んだようですね。そうすると、書き上げるまでに3年以上かかったというのは…。
せいや:日々の仕事をやりながら書いていたので。漫才ネタも書かなあかんし、27時間テレビのダンスとか、歌とか、積み重ねる系の仕事がけっこう多いんですよ、僕の仕事って。うわぁ!ってなった時に、これもう無理や、やめようかなと何回か思ったんですけど、なんとか10分間でも、受験勉強みたいに机に向かって。めっちゃしんどかったです。実質、書いた時間をギュッとしたら6時間くらい。その場所に行って、じゃあ書こうっていう態勢に入るまでがしんどかった。本だけ書いてるわけじゃないから。
——10分間のうちに頭を切り替えて文章を書くというのは大変な作業だと思います。漫才やコントを書くのと小説を書くのとでは、やっぱり違いますか。
せいや:書いてる内容は違いますけど、作業の感じは似てましたね。自分の中にあるアイデアの種みたいなのをどんどんちりばめて、それを組み合わせて1個の作品にしていって。後半はちょっとテンポを上げたいから、面白い文章の回数を増やしたりとか。最後に全体的な形を整えて仕上げるところは、漫才の作り方と似ているし。子どもの頃からずっと作っていたネタと同じような感じ。勉強とは全然違う“創作”ですね。

●やっとみんなに読んでもらえる
——初著書ということで、書き終わってみてどんな感想をお持ちですか?
せいや:初めてでわかんなかったんですけど、もっと書けたなっていう印象はあります。読みやすさ全開なので、もうちょっと肉厚でも良かったかなと。まだまだ、いろんなエピソードを書けたと思うので。
——続編、という今後の可能性もありそうですね。それでも十分に興味深いエピソードが並んでいましたが、特に書きたかったのはどの部分でしょうか。
せいや:やっぱり後半に出てくるコントですね。うまくいってない学校生活から、ほんまに面白いコントでひっくり返すっていうストーリー。すごくストレートな展開やと思うんですよ。あんまり寄り道せず、文化祭で仲間みんなと一緒にひとつのコントを作りあげるっていう。活字でどうやったら面白いコントが伝わるかなと思ったんですけど、テレビマンの人からも「あれ面白すぎるから盛ってるでしょう?」って言われるくらい、意外と伝わったみたいで。
——半自伝小説ではありますが…。
せいや:まあまあ、ほぼほぼ、ほんまにこういうコントをしたんですけど、多少ね、僕のペンが走った感じはありますね。
——笑って泣ける感動作ではあるものの、テーマとしては「いじめ」という難しい問題を扱っています。書きながら当時を思い出してつらくなることはなかったですか。
せいや:つらくはなかったですね。本にできるっていう時点でエンタメに昇華できているんで、なんやったら、嬉しかったくらい。これをみんなに読んでもらえるんやって思うと、書きながらウルッときたりとか。今が楽しいんでね。こういう体験をしたことで印税をいただけるんやったら、希望しかないですよ。とにかくいいこと。
——この時の体験は、2021年に「読売中高生新聞」でも連載されていました。芸人さんはご自身の体験をネタにすることがあると思いますが、せいやさんが「いじめ」のことを公の場で話すようになったきっかけはありましたか。
せいや:いや、ずっと誰かに喋ってましたよ。いじめられている渦中も、地元の友だちを笑かそうと思って「学校でこんなんされてんねん」って喋ってましたからね。ハゲた時も「皮膚科の先生にこんなん言われてん」って、全部ネタにしてました。ずっと喋り続けてるから、本に書いた話の流れはまったく変わってないですね。当時から思っていたのと同じ。
——お話の内容もほぼ決まっていたんですね。
せいや:15歳の時から「これは本にできるかもな」と思いながら過ごしてたので、「17年来の夢が叶った」と書いてるのはそういうこと。20歳くらいの頃には居酒屋で飲みながら芸人仲間にも喋って、「いや、それ本になるで」って言われていたし、もう、ずっとずっとですね。鉄板トークみたいな感じでずっと喋ってきました。

●いじめの加害者に、この本を
——ネタにされていたとはいえ、体に起きた変化を見ると、内面は相当弱っていたのではないかと思うのですが。当時、どんな精神状態だったんでしょう。
せいや:どうなんですかね…。僕、この本を出すにあたって家族に聞いたんですよ。オカンは当時つらかったって話してましたけど、僕はまったく…。オカンがつらいやろなーと思うことのつらさはありました。これ、本に入れ忘れたんですけど、その頃、オカンとかオトンとか家族に「俺がハゲて良かった。そう考えるわ」って言ってるんですよ。家族の誰かが病気になってたら耐えられないから、自分がなって良かったって。
正直、当時ずっとしていたホームセンターのレジ打ちのバイトで、お客さんの前で急にウィッグを取る、みたいなこともやってましたからね。「うわぁ!」ってびっくりする顔見たくて。ちょっと異常者ではありますよね。そこまでいくと共感されないんで、ちょっと抑えましたけど。
こうなったことはしょうがないんで、つらいとかはなかったし、書きながら、それをどう楽しむかっていうことだけでしたね。ほんまに。今もそうですけど、イヤなことがあっても楽しむしかないんで。
——家族ではなく自分で良かったって、なかなかそういう心境になれないと思うんですが、家族思いだなと感じます。
せいや:いいように言ったらそうなんですけど、僕がたぶん鈍いんですよ。その苦しみに対する鈍さがあるというか、別にそんなに苦じゃないというか。ただ、この子、可哀想やなって思ってくれてる状況が可哀想やなって。実際はそんなことないのに。
——とはいえ、「いじめ」と「いじられ」の境界線とか、思春期の難しさとか、いじめのリアルな実態が伝わってくる作品でもありました。
せいや:いじめってやっぱりなくならないですよね。加害者がもっと賢くなるべきだと思うんですよ。柔軟な考えを持つとか、エンタメとかアートに興味を持つとか、わからないけど、いろんな角度でモノを見ながら育てば、ひとりの人間をいじめたりしないはずなんですよ。違和感があることに対しても理解が増える。いじめるって、自分の尊厳をおとしめることにもなるんで、それがいちばん簡単なことやけど、そこを超えちゃいけない。加害者が未熟やなって思います。
——未熟だからこそ、簡単なほうに流れてしまうという。
せいや:そう。だから、いじめをなくすのはかなり難しいんですけど、こういう本で、ひとりでもいいから、加害者に「自分がやってることはダサいぞ」って思わせたいんです。ダサいし、弱いんですよね。被害に遭っている子には「いじめてるやつが100%ダサいから、安心して」って伝えたいです。
——実際に体験されたせいやさんからすると、周りの家族や友だちは本人にどう向き合えばいいと思いますか?
せいや:この本はいじめの攻略本でもなんでもないというか、こういう一例があったよっていうのを読んでほしいんですよね。「創作やからうまくいった」とか言われがちですけど、ハッピーエンドのこういう話が、もしかしたら誰かの勇気になるかもしれないっていう可能性に賭けたのが、この本。いじめって、そのお子さんの性格もあるからパターン化できないし、マニュアルもない。もし自分の息子がそういう目に遭ったら、もちろん助けますけど、まずは息子の力を信じるしかないですね。
——子ども同士の問題に大人が介入する時の難しさとか、実際に体験しているからこそ書けたことも多かったと思います。
せいや:読むのがしんどいっていう人もいましたね。リアルすぎて過去のことを思い出した、とか。でも、この本はしんどいだけでは終わらないんで。ハッピーエンドになるからこそ、前半はリアルに書きたかった。ドラマとか映画で親が入って解決っていう話を僕も見たことありますけど、やっぱりそう簡単にはいかないんですよ。実体験から、いじめの現状を他にはない視点で提案できたらなあっていうのはありました。

●悲しいままで終われるか
——帯に「どん底から這い上がった人のほうが絶対に強い」とありますが、この体験があったからこそ強くなったと実感することはありますか?
せいや:こういう経験をしているんでね。僕個人に関しては、これからとんでもないことが起きても「また本にできるわ」って思うでしょうね。僕の場合はね。今回の本が成功体験になっているから。ただ、イヤなことがあっても、なんとかなるかなって、そういう思考サイクルで生きたほうが楽しいんちゃうかなって。
——笑って乗り切るという空気感は、それこそ大阪のお笑いのノリにも通じるような気がします。
せいや:それはあるかもしれないですね。ただじゃ転ばん、というか。悲しいままで終われるかって感じです。マジでやばい時、「これをどうしたろか」って思いますからね。ほんと、なめんなよ、です。人生なめんなよ。
——せいやさんの場合は人生を救ってくれたのがコントだった、ということでしょうか。今ではそれをお仕事にされていて。
せいや:そうですね。昔からネタ作りに励んでいたから、相方(霜降り明星の粗品)とも会えましたしね。僕ら幼なじみでも何でもなくて、お互いに学生お笑いみたいなのをやっている中で、僕のピンネタを見て「コンビ組もうや」って声をかけてくれたんで。ネタが人生を切り開いてくれていますよね。
——ちなみに、粗品さんは本を読まれたんでしょうか?
せいや:いや、聞いてないんですよ。相方から渡されたら読まなあかんってなるんで、可哀想じゃないですか。本って読みたい人が読んだらいいと思うんですよね。だから渡さなかったんです。
——せいやさんご自身、ふだん読書をすることは。
せいや:星新一のショートショートだけはめっちゃはまって、中学生くらいからずっと読んでたけど、ほかは全然読んでないですね。文章にふれるっていう意味では、小さい時から漫才ネタを書いてましたけど。
——純文学で受賞されている先輩もいらっしゃいますが、文学賞に興味はありますか?
せいや:賞、ほしいんですよ。この本は小説やから、直木賞とか芥川賞ではなく、狙うなら本屋大賞って言われてます。いろんな先生方はいっぱい本書くからチャンスあるじゃないですか。僕は初著書で、懸けてる想いが違いますから。ダ・ヴィンチさん、賞作ってくださいよ。ダ・ヴィンチが選ぶ、勝手にゴリ押し大賞、お願いします。
——勝手にゴリ押しします(笑)。次に書くとしたら純文学を…?
せいや:純文学の書き方は、僕には難しいかもしれないですね。せいや、純文学で賞取ろうとしてるってバレると思いますよ。
——学生も読みやすそうですし、教科書に載ったら良さそうですね。
せいや:教科書に載るのはすごいですね。映像化と賞と教科書を目指します。まずは賞。賞がほしい。賞、ちょうだいよ~。

取材・文=吉田あき、撮影=金澤正平