額賀澪、はやみねかおるは「読んでいて子どもを信頼していると感じる」ミステリーの概念を覆された児童作家の魅力と思い出を語る【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/3/6

――とくに好きなキャラクターはいますか?

額賀:思い入れが強いのは、夢水シリーズの亜衣ちゃんですね。亜衣ちゃんは文芸部に所属していて、物語の本筋にからまないところでも、ずっと小説を書いているじゃないですか。私も小学校4年生くらいのときからずっと小説を書いていたから、文芸部で頑張っている亜衣ちゃんが羨ましくてしかたがなかった。でも、田舎の中学校には文芸部なんてものは存在していなくて(笑)。かわりに、はやみねさんの小説を貸したことがきっかけで仲良くなったクラスメートが、私の小説を読むたび挿絵をつけて返してくれたりしていたんですけどね。

亜衣(出典:はやみねかおるファンクラブ「赤い夢学園」)

――素敵! でもだったら、より、部誌を出す亜衣ちゃんたちに憧れますね。

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額賀:そうなんですよ。読んでくれる子が一人でもいたから、私は小説を書き続けることができた。文芸部に入って、亜衣ちゃんみたいな子と出会っていたら、あの頃の私はもっと楽しかっただろうなあ、って。亜衣ちゃんって、本当に一生懸命、小説を書いているじゃないですか。文化祭で出す部誌に載せる小説を頑張って書いている亜衣ちゃんを見て、私も頑張って書こうと思ってました。

『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』(はやみねかおる:作、村田四郎:絵/講談社)

――その部誌が1冊売れて、お代の50円が宝物になるんですよね。

額賀:レーチくんが、ネックレスにしてくれるんですよね。あのエピソード、大好きです。そんな亜衣ちゃんと、当時すでに小説家になりたいって思っていた私は、一緒に頑張っているような気がしていました。だからいまだに、出版業界のどこかに亜衣ちゃんがいるんじゃないかなって思っちゃう。作家にはなっていないかもしれないけれど、同世代の編集者としてバリバリ働いているんじゃないのかな、って。

――いい話すぎますね。でも、だったら「赤い夢学園」というファンクラブがたちあげられたのも、感無量なのでは。

額賀:はやみねさんが校長先生という設定がいいですよね。そして、はやみねさんがコメントしたことに誰もが返信をつけられる機能もいいなって思うんですけど……大人になった今、そして作家になった今、自意識が邪魔して、無邪気に参加できる気がしない(笑)。中学生だったら絶対に、やってた!

――その気持ちは、すごくわかります。あのとき、これがほしかった(笑)。

額賀:でも『怪盗道化師2』とか、未公開の原稿を読めるのはありがたいですよね(※現在は公開終了)。あと、中学生だったあの頃、新刊が出るまでの空白が耐えられなくて、ファンサイトをめぐっていたのですが、「このキャラクターが登場するのは、これとこれ」「このエピソードはこの巻」みたいな細かい情報を網羅してくださっている管理人の方もいたんですよね。刊行点数もシリーズ点数も膨大な今、ファンクラブにこそ、その機能がほしいです(笑)。

――あのときの叡智をもう一度(笑)。そのほうが、大人になって久しぶりに「はやみねさんの作品を読もう」という人たちの助けにもなりそうですね。

額賀:私が、ミステリーの概念を覆されて、はやみねさんの作品からはむしろ青春のきらめきを受け取ったように、ジャンルがなんであろうと小説というのは心底楽しむことができればそれでいい、それがエンタメなんだってことを、大人の読者も存分に味わえるはず。大人になった今こそ、むしろ、手にとって読んでほしいですね。

取材・文=立花もも

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