大木亜希子、“元アイドル“の肩書きは「なんとも思っていない」。小説家として生きていく覚悟を決めるまで【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/3/8

“モラハラ夫”はアイドル時代に見聞きした話をもとに

――葉の年齢は34歳と、大木さんとほぼ同じですが、ご自身をモデルにされたところもあるのでしょうか。

大木:正直に言うと、自分を投影した部分は多々あります。アイドル時代には、同じグループでもメンバー同士での競争があって、周囲のスタッフさんに気に入られなければ生き残れない世界でした。だから周りに対して常に“いい顔”をし続けるのが当たり前になっていたんです。

 同じように、葉も夫の英治の前では“いい顔”をし続けてしまう。彼女の本質は気が強くて、自己のアイデンティティもしっかり持っているんです。そんな彼女が人との出会いや料理を通じて、自分を取り戻していく。そんな物語を書きたいと思いました。

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――“モラハラ夫”の英治のキャラクターは非常にリアルですが、何か取材をされたのでしょうか。

大木:英治の人物造形は、アイドル時代に見聞きした話がもとになっています。知り合いの女性アイドルで、芸能界引退後に経済的に豊かなパートナーと付き合い始めた方がいたんですけど、彼がモラハラ気質だったんです。彼女は食事制限、体重制限を強いられるだけではなく、化粧をしていないと冷たい態度を取られたり、今でいうGPSみたいなものを付けられて、行動を監視されたりもしていました。

 他にも、すごく見た目も美しくてタレント活動もしている子が、自己肯定感の低さにつけ込まれて、経済的には豊かな男性に、精神的に支配されるというケースを見ることもありました。そういう現実を見てきたなかで生まれたのが、英治というキャラクターです。

――ご自身の思いや経験が活かされた作品ですが、ここは絶対に書きたかったというシーンはありましたか。

大木:葉が母親に「離婚はやめなさい。家に帰りなさい」と言われて「私、もう34歳だよ。他人のために生きているうちに、こんなにおばさんになっちゃった」と気持ちをぶつける場面があるのですが、そこはどうしても書きたかったところですね。

 30代って社会的には大人と見なされますし、ネットでは「30歳を超えたらBBA(ババア)」などと女性が自分を卑下するような言葉もあります。でも30代なんて、まだまだ成長の伸びしろがあるし、自分のことを「おばさん」なんて言うべきじゃない。そういう風潮へのアンチテーゼとして、このセリフを書きました。口には出せなくても、同じ思いを抱えている女性は多いのではないかと思います。

――そんな主人公が、自分を取り戻していく物語ですが、書き終えたときの心境はいかがでしたか。

大木:葉が料理人として生きていく覚悟を決めるように、私自身もこの作品を書き終えたことで、小説家として生きていく覚悟ができました。

 一方、肩書きにこだわることなく、毎日の暮らしをひとりの人間として丁寧に積み上げていくことで、必然的によい小説が書ける気がしています。

 実は、小説家をやっていくのが怖くて、母に泣きながら電話したこともあったんです(笑)。でも、この作品を書き上げたことで、作家の道が整っていく感じがあって。今はもう「どんなジャンルでも、書きたいものがあれば取材して、小説家として書いていこう」と思えています。怖さも消えましたし、精神的にもどっしりしていて。今までで一番、いい状態ですね。

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