大木亜希子、“元アイドル“の肩書きは「なんとも思っていない」。小説家として生きていく覚悟を決めるまで【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/3/8

「元アイドル」の肩書きに対する気持ちの変化

――大木さんご自身のことについてもお伺いしたいのですが、「元アイドル」という肩書きについて、現在はどう思われていますか。

大木:今は「なんとも思っていない」というのが本音です。最初は本当に嫌でした。例えば新刊のインタビューをお引き受けしても「元SDN48」と付けられるのが、どうしても嫌で。もちろん過去の経験に矜持はあります。

 でも、あまりにも「元アイドル」という点を強調されることに疲弊してしまったこともあって。

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 メディアの方からすれば、その肩書きも含めて興味深いからこそ取材してくださっているのも、今は理解できますけど、以前はそれが嫌で仕方なかったんですね。

 でも、35歳になった今は、「どうとでも料理してください」という気持ちです。ただ、過去のキャリアに関わらず「私の書く小説はものすごく面白いですよ」という自信はあります。例えば、川上未映子先生もアーティスト出身ですし、尾崎世界観さんもミュージシャンとしてご活躍されていますよね。異なるバックグラウンドを持った人が作家になるのは、すごく自然なことだと思うんです。

 アイドルも本当にたくさんいるわけで。そのなかで、小説を書く方もいるでしょうし、過去に対して色眼鏡で見ていたのは、結局自分自身だったんだなっていう気がします。だから今は、「元アイドル」と紹介してくださるなら、どうぞご自由に、という考えに変わりました。

――そんなふうに気持ちが変化したきっかけはあったのでしょうか。

大木:『人生に詰んだ元アイドル〜』が映画化されたときに、深川麻衣さんと井浦新さんが出演してくださったんですが、お二人の人柄に触れたことが大きかったですね。深川さんは元乃木坂46のメンバーですし、井浦さんも20代の頃モデルとしてご活躍されていました。でもお二人とも、今は多くの人がご存じのように一人の俳優として、素晴らしいお仕事をされていて。映画の撮影現場に伺った際も、すごく真摯(しんし)にお芝居に向き合っていました。

 その姿を間近で見たとき、「今、第一線で活躍している人たちも、私と同じように過去と向き合いながら生きてるんじゃないか」と気付いたんです。

 気持ちが変わったのはそこからですね。「もう私小説が映画にもなったんだから、元アイドルでもいいじゃん!」って(笑)。それまでは「元アイドル」って言われるのが嫌で悩みまくっていたんですが、そこからは吹っ切れました。最初からそう思えていたわけじゃなくて、ものすごく葛藤したからこそ、今は平気になったんだと思います。

――悩んだからこそ、今の強さにつながったんですね。本作で著作としては4冊目、小説としては2冊目となりましたが、今後の活動について目指すことを教えてください。

大木:「本をいろんな人に読んでほしい」って言うべきなのかもしれませんが、本音を言うと、私はやっぱり、生きづらさを抱えている人に届いてほしいと思っています。20代の頃から「元アイドル」という経験から色々なことを感じたり、女性だからといった理由で理不尽な扱いを受けたりすることもありました。

 だからこそ、同じように生きづらさを感じている人たちに、少しでも寄り添えるような作品を書いていきたいと思っています。私の本を読んだからといって、完全に元気になるわけじゃないし、完全に生きづらさがなくなるわけじゃないかもしれない。でも、明日をちょっとだけ頑張ってみようかなって思えるような本を書いていきたいですね。

取材・文=堀タツヤ、写真=島本絵梨佳

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