「こんなの『ももたろう』じゃないよ~」読者は泣く!? 人気絵本作家・たなかひかるの新作は「※はじめて読む桃太郎として与えないでください※」《インタビュー》

文芸・カルチャー

更新日:2025/3/10

「綺麗にまとまっている絵本は、印象に残らない」

『ももたろう』より

――子どもに伝わるか不安はなかったのですか?

たなか:めちゃくちゃありましたよ(笑)。なのでラフの段階でお子さんがいる編集者さんに渡し、読んでいるところを動画撮影してもらったりしてそれを参考にしながら少しずつ調整していきました。若干ポカンとなったお子様もいましたけど、まぁそれはそれでアリかなと。「どういうこと?」ってなってもそれが読んだ人同士のコミュニケーションになればいいし、大きくなって「あの絵本なんやったん?」みたいになってくれればそれはそれで意味があると思っています。

――具体的にどのような調整をなさったんですか?

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たなか:最初は「ももたろう」だけじゃなく、「おじいさん」「芝刈り」「どんぶらこ」など、ももたろうにまつわる色々な言葉をドンドン物体化させて展開していこうと思ったんです。でも、読む人は新しい言葉が出てくるとどうしてもその文字を読んじゃうんですよ。そりゃね「ももたろう」という字が出てきたら読むのは当たり前なんですけど、この絵本では文字を物体化することによって「ももたろう」ではない何かとして捉える感覚が大事になってきます。ゲシュタルト崩壊じゃないですけど、文字を見ても読まずに物体として錯覚してほしかった。なので文字の種類を減らして、どれだけ同じ文字で遊べるかという方向で描いていきました。

――作画についてのこだわりはありますか?

たなか:物体化した文字の質感ですね。例えば、“肉のようなももたろう”はベーコンのような生々しさを表現しています。“パセリのようなももたろう”のパラパラ感や、“チーズのようなももたろう”の裂けている感じも力を入れています。“虫のようなシンデレラ”も、運び出すためにバラバラにされたりしています。これもすごくホラーな感じに仕上がっていますけど、“かさじぞう“たちからしたらわざと怖くしているわけではありません。彼らはただ、運びやすくするためにバラバラにしている。そういったところはこだわっています。

――たなかさんの作品は、少し不気味なテイストが盛り込まれていることが多いですよね。今回ですと、シンデレラやラストのシーンがそうです。

たなか:幼少期にたくさん絵本にふれてきましたが、綺麗にまとまっているものは、あまり記憶に残ってないんです。さっきも言いましたけど、大人になった時に「あの絵本なんやったん?」を大事にしたい。僕自身も昔読んだ絵本がふと気になって大人になって探して読んだりしています。読んでくれた子の人生に、そういうちょっとした影響を与えたいなとは思っています。

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