樹木希林が、年上男性たちにひるまず挑んだ「伝説の対談」。渥美清、萩本欽一、いかりや長介…豪華ゲスト12人と繰り広げた「男と女についての深い話」【書評】
公開日:2025/3/21

樹木希林さんが亡くなった2018年から早6年。希林さんが残した数々の「言葉」が、今も多くの人の心を捉え続けている。飾らず気取らずありのまま、ときには自分すら突き放しつつ、物事の核心をズバリとついた言葉たち――人生の深みを感じさせる潔い言葉に魅了され、新たにファンになったという方もいることだろう。このほど登場した対談集『人生、上出来(中公新書ラクレ)』(中央公論新社)を読むと、そうした希林さんの言葉が「なるほど、こういう生き様から発せられるのか」とちょっと納得するかもしれない。
といっても、本書の希林さんは若い。本書は元々、1976(昭和51)年に雑誌『婦人公論』で1年間(出産をはさみつつ)連載した「伝説の対談」をまとめたもので(希林さんが亡くなった翌年の2019年に『心底惚れた』として単行本化されたが、このほど増補版として新書化された)、連載当時は33歳! 内田裕也さんと結婚して3年目、テレビドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』でブレイク中の頃で、まだ芸名も「悠木千帆」だった。
そんな若い希林さんに、なぜ名言(を発する大器になりそうな感じ)の気配を感じるかといえば、対談相手がどんな人であっても相手に対する態度が「自然体」で、変わらずひるまず「男と女の話」を聞き出そうと攻めていくから。お相手は渥美清さん(47*)、五代目中村勘九郎さん(20)、草野心平さん(72)、萩本欽一さん(34)、田淵幸一さん(29)、十代目金原亭馬生さん(48)、つかこうへいさん(28)、山城新伍さん(37)、いかりや長介さん(44)、山田重雄さん(44)、米倉斉加年さん(42)、荒畑寒村さん(89)と、映画スターからTVの人気者、スポーツ選手に元祖・社会主義運動家まで多種多彩で超豪華な12名。ほとんどが希林さんより年上の男性ばかり(*名前の後ろは対談当時の年齢)だが、どんな年上相手でもひるまず、ときには相手を当惑させつつ距離を縮め、しっかり本音を引き出してしまう手腕はお見事だ。
たとえばいかりや長介さんとのやりとりでは、
いかりや:だから、最初に言ったでしょう。ぼく個人のあれだから。
悠木:もちろん個人の、長さんのあれを聞きたいの。その女のどういうのがよかったんですか、どの部分が。
と、ド直球。同じく萩本欽一さんとのやりとりでも、
悠木:いますか、惚れてる人。
萩本:惚れているというか、そういうタイプ、あこがれるという、あこがれね。ありますよ、それは。
と、これまた驚くほどのド直球。それでも対談相手が怒り出すこともなく、ぼかしながらも本音をちらつかせていくのが面白い。実は当時「悠木さんとの対談は勘弁してくれ」という方も結構いたそうで、男性優位が当たり前の昭和の時代、いわゆる女目線ではなく、かといって男目線でもなく、捉え所がないのに泰然と正面から向かってくる希林さんに男たちは畏れをなしたのかもしれない。ちなみにあらゆることが「男と女」の図式に収斂し、「愛人を作るのは当たり前」という昭和感覚満載なのはご愛嬌。「惚れる」という言葉の印象も今とはだいぶ違う気がする。
なお各対談の最後には希林さんの味わい深い「一言」が添えられ、いわゆる名言に通じる言葉の冴えにもグッとくる。新書化に際して、生前未発表の「夫婦の最後を語る」インタビューも収録されており、希林さんの息づかいをさまざまに感じることができるのも興味深い。
文=荒井理恵