絵本作家ヨシタケシンスケが“リアルな弱音”を吐露!疲れ切った大人に刺さる、14年ぶりの新作スケッチ集【書評】
PR 公開日:2025/3/29
絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケさんは、育児中の親が肩の力を抜ける絵本を多数描く。『もうぬげない』(ブロンズ新社)や『おしっこちょっぴりもれたろう』(PHP研究所)など、数々の代表作からは子どもに寄り添う優しさと育児に悩む親への気遣いが感じ取れる。
日常の中に存在する、かき消されてしまいそうなほど小さな弱音をポジティブに変換して作品に落とし込み、読者の心を照らす。ヨシタケさんの作品には、そんな力がある。
そんな風に、誰かの“些細な弱音”に目を向けてきたヨシタケさんがこのたび発刊したのは、自身の弱音を詰め込んだ2冊のスケッチ集だ。
本作は、14年ぶりの新作スケッチ集。ヨシタケさんがライフワークとして描き続けているアイデアスケッチの中から、「良い弱音(=ヨイヨワネ)」を描いた作品をピックアップした。おなじみのゆるかわいいイラストが添えられたヨイヨワネの中には、自分のうちにある気持ちと似たものも多くあり、心の奥に届く。
2冊のスケッチ集は、それぞれテーマが異なる。
『ヨイヨワネ あおむけ編』(ちくま文庫)は、疲れた心にエネルギーを補給できる1冊だ。ヨシタケさんはネガティブな言葉とみなされがちな弱音をクスっとできる「ヨイヨワネ」に変換し、読者を笑顔にする。

ただ、明るい綺麗事で無理やり弱音を飾ろうとしていないのが本作の良さだ。弱音の捉え方はポジティブではあるものの、ヨシタケさんは言葉にすることを躊躇う絶望や苦しさもリアルに表現している。

本作は単なるスケッチ集ではなく、ヨシタケさんの素の心が知れる詩集といっても過言ではない。
一方、『ヨイヨワネ うつぶせ編』(ちくま文庫)は生き方に悩み、笑えない日に寄り添ってくれる1冊だ。生き続けていくことは難しい。なんとか日常をこなしていても、ふと生き方の正解やしんどい気持ちとの向き合い方が分からず、心が不安定になる日がある。そんな混沌とした気持ちを、ヨシタケさんはシュールな言葉を添えたイラストで表現。自虐やユーモアを入れつつ、ネガティブな思考を肯定してくれるため、空元気な状態で生きている人の心に刺さる。

また、ヨシタケさんの弱音に共感すると、心と体に鞭を打ち続けている自分の姿を客観視でき、心のSOSに気づくきっかけも得られるはずだ。
作品の中には、老いの受け入れ方や自分の命の認め方をテーマにした、シンプルながらも強いメッセージ性を持っているものも多い。

私は頑張って生きてきた。そんな“これまで”を、自分だけは認めてあげたい。そう思わせてもくれる本作は、疲れ切った大人の心を癒す処方箋だ。
また、2冊のスケッチ集には「汚い感情」や「なかったことにしたい」と思ってしまいがちな気持ちもリアルに描かれているからこそ、意味がある。自分の狡さや「いい人」ではいられない日の私と直面すると、人は自分の弱音を恥じたり貶したりしてしまうことも多いが、本来、心は自由だ。どんな感情も、どんな種類の弱音も心にあっていい。
もしかしたら、ヨシタケさんは本作を通して、そんな“赦し”も伝えたかったのかもしれない。
普段、溜め込みがちな弱音には、こんなにも価値がある。そんな気づきをもたらす「ヨイヨワネ」の数々、あなたの心にはどう響くだろうか。
文=古川諭香