『二木先生』著者・最新作! 承認欲求を満たすための“卑怯な嘘”…ネットに潜む暗い感情を描く、心ヒリつかせる青春小説【書評】
公開日:2025/4/3

インターネットの海をさまよっていると、どうしてこうも暗い感情が刺激されるのだろう。ほしくてたまらない承認欲求は意外と簡単に満たされるし、他人を見下して嘲笑、罵倒するのも容易い。「普段は絶対そんなことはしない」「インターネットの世界だけ」。そう思っていたとしても、気づけばその海に溺れ、その影響が日常世界にまで侵食してしまったという人は少なくはないはずだ。
『ゲーム実況者AKILA』(夏木志朋:著、Utomaru:イラストレーター/スターツ出版)は、そんなインターネットの海に溺れた者たちの物語。『二木先生』著者・夏木志朋氏の最新作であるこの作品は、スターツ出版文庫から創刊された「スターツ出版文庫アンチブルー」というレーベルの第1弾でもある。そのレーベルのコンセプトは「綺麗ごとじゃない青春」だというが、本書ほどそれを痛感させられる1冊はなかなかない。引き潮に連れ去られたような、全てを奪われたような感覚。心をどこまでもヒリつかせてくる青春小説だ。
本書には2つの小説が収録されているのだが、最初に紡がれる物語「ファン・アート」から衝撃的だ。主人公は友達がいない孤独な青年・周助。周助は、ゲーム実況者・AKILAとして活動しているが、視聴者はほぼゼロ。そんなある日、いつもは成果のないエゴサーチをしていると、周助はSNS上で初めて自身のファン・アートを見つけた。投稿者のチトセは、どうやら周助と同世代の女の子のようで、AKILAの動画をかなりよく見てくれているらしい。だが、自分の絵に自信を失っているようで、「今までに描いた絵、全部、削除しようかな」とまでつぶやいていた。このままでは初めてインターネット上に生まれたAKILAの評価が、ファン・アートが消えてしまう。周助はチトセに自信を取り戻させるため、ある“卑怯な嘘”をついて彼女に近づく。
続く物語「ヲチ」は、遊ぶことに苦手意識をもつ斗真の物語だ。彼の趣味は、インターネットのある掲示板の「痛いネット民をヲチするスレ」を見ること。ヲチとは、ウォッチングを短縮したスラング。痛い発言をするネット民を本人の知らないところでその発言にツッコミを入れたり、嘲笑ったりするスレにハマっていたのだが、ある日、斗真は自分の知っている人がネタにされているのを見つけてしまい、その人物にちょっかいを出さずにはいられなくなってしまう。
男女が出会ったからって恋が生まれるとは限らないし、青年が2人出会ったからといって真っ直ぐな友情が育まれるとは限らない。まったく違う2つの物語、共通するのは、インターネットの世界が起点となっていること、それが現実世界へと深く関わってくることだ。そして、何よりも恐ろしいのが、他人事ではいさせてくれないこと。描かれているのは、暗い感情ばかりなのに、どうしてだろう、少し身に覚えがあるのだ。他人からの評価を必死に求めてしまう気持ちも、誰かを蔑みたくなる気持ちも、残念だが、分かる。そのこじらせた感情は、どこに向かうのか。鼓動が高鳴り、背筋がゾクゾクとする。青春を示すような「ほろ苦い」という表現では済まされない、猛烈な苦さが全身に広がっていく。
キラキラしているだけが青春ではないし、読書でもない。ときに、真っ黒な感情と向き合う時間も決して悪くない。むしろ、たまにはこういう甘くはない世界もクセになる。綺麗なだけの世界にちょっぴり飽きてしまったあなたにも、この黒に近い青の世界をぜひ。きっとあなたもこの世界の虜になってしまうに違いない。
文=アサトーミナミ