小説とのギャップが凄い! 三浦しをんのエッセイ。「好き」を追求するオタクライフ、妄想に事欠かない毎日【書評】
PR 公開日:2025/4/29

お気に入りの物語に出会うと、「こんな物語はどんな人が書いたのだろう?」と作家本人が気になってきたりする。ご本人のインタビュー記事もうれしいが、もしその作家さんがエッセイを出しているなら読んでみるとさらにご本人のことがよくわかるもの。物語の世界とは一味違うご本人の魅力にひきこまれ、さらに作品を読み進めるきっかけになったりもする。
直木賞作家の三浦しをんさんは、そんなエッセイと小説作品のギャップが、さらに興味を持つきっかけになるに違いない作家さんだ。三浦さんといえば、直木賞受賞作の『まほろ駅前多田便利軒』(文春文庫)、本屋大賞受賞作の『舟を編む』(光文社文庫)ほか、多数の受賞歴のある超人気作家。ドラマやアニメなど映像化作も多いので読んだことのある方も多いと思うが、三浦さんの場合はエッセイで垣間見るご本人の「素」の勢いがたまらないほど面白すぎて、物語とは別に中毒になってしまう。このほどそんな三浦さんのベスト&ロングセラーであるエッセイ集『好きになってしまいました。』(大和書房)が待望の文庫化となったので、未体験の方にはぜひオススメしたい。
本書は2012年から2022年の10年間に三浦さんがいろいろな雑誌や新聞で発表されたエッセイを集めたもので、大きくは日々の暮らしのこと、旅のこと、本のことがテーマになっている。ご本人が「『真面目寄りでお願いします』と言われていた原稿すら、読み返してみるとはっちゃけ寄りになってしまっている」と述懐するように、ほぼ全編はっちゃけというかぶっちゃけというか、自虐を含むセルフツッコミの三浦節に爆笑しながら、ついつい一気読みしてしまう面白さだ。
このエッセイを書いた当時の三浦さんは30代半ば〜40代半ばで、靴とネイルと観葉植物を愛でる気ままなひとり暮らしを満喫されている(ちなみに文庫版追記を読む限り現在進行形のようだ)。オタク気質で漫画と本が異常に好きすぎて家に溢れまくっているため、オシャレ部屋に住む夢こそ断念しているが(この件の友人との語らいは爆笑だ)、植物を守るため害虫や鳥と日々攻防戦を繰り広げたり、宝塚・プロレス・某「歌ったり踊ったりするきらめく集団」など「プロの芸」への愛を炸裂させたり、欲のままに食べたり飲んだり(いわゆる「ワガママボディ」になってもあっけらかんとセルフツッコミでネタにされているので、「そうだ、そうだ!」と同意したくなる)――とにかく自分で見つける楽しみ&妄想に事欠かないおひとり様暮らしは、なんだかとっても楽しそうだ。さらに「即身仏」をめぐって旅をしたり、尾鷲で山の男たちと豪快な日々を過ごしたりと旅の話もバラエティに富んでいて興味深いし、「読書好き」の視点が冴える本についてのエッセイは短いながらピリリと印象的。執筆期間にはコロナ禍もはさむが、常にマイペースな三浦さんの日々には暗さがまったく感じられず、何より笑える(これ、大事)。
ちなみにネイルにこだわる三浦さんは、昨年なんと「ネイルオブザイヤー2024」を受賞されたとのこと。この本で三浦さん中毒になるであろうみなさんは、ますます我が道を行くはずの三浦さんから、きっと目が離せなくなるはずだ。
文=荒井理恵