長澤まさみが脚本に惚れ込んだ映画『ドールハウス』 シークレット動画も見られる公式ノベライズ本の作りこみがすごい【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/6/13

映画ノベライズ ドールハウス
映画ノベライズ ドールハウス原案:矢口史靖、著:夜馬裕/双葉社

 近年は、文字以外の要素でスリルを掻き立てる小説が注目されている。例えば、『変な絵』(雨穴/双葉社)は事件につながる何かがおかしい9枚の絵を作中に描くという斬新な手法で読者の考察力を高め、世界30ヵ国164万部の話題作となった。

 文字以外の情報があると世界観が分かりやすく、普段は読まないジャンルにもチャレンジしたくなるものだ。そんな気持ちになった時、ぜひ手に取ってほしいのが『映画ノベライズ ドールハウス』である。

 本作は、2025年6月13日に公開予定の映画『ドールハウス』の公式ノベライズ。映画は『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』など数々のヒット作を作り上げた矢口史靖監督がメガホンを取り、一体の人形が幸せな家庭を翻弄する様を映像化した“ドールミステリー”。主演・長澤まさみが脚本の面白さに出演を熱望したことでも話題の作品だ。

ノベライズにあたり執筆を担当したのは、怪談師・作家の夜馬裕氏。淡々とした文章の中に「じわじわと迫る恐怖」が漂い、小説ならではのゾクゾクを与えてくれる。SNSでも話題になっており、早くも重版となっている。

 あらすじはこうだ。

 都内のマイホームで幸せな日々を送っていた鈴木佳恵と夫・忠彦は、5歳の娘・芽衣を心の底から愛していた。だが、ある日芽衣は亡くなってしまい、満ち足りた日常は一変。佳恵は精神的に不安定な状態になってしまう。

 そんな日々から救い出してくれたのは、近所の骨董市で見つけた一体の人形だった。亡き娘に似ている人形を佳恵は肌身離さず持ち歩くようになり、髪や爪を切るなどのお世話もし始めたのだ。

 人形に癒される日々の中で、佳恵の心は徐々に回復。笑顔を取り戻し、やがて夫婦の間には真衣という娘が誕生した。すると佳恵は憑き物が落ちたかのように人形に執着しなくなり、娘をかわいがるように。ようやく平穏な日常が戻ってきた。夫妻はそう思ったが、5歳になった真衣が人形と遊ぶようになると、奇妙な出来事が多発。危険を感じた佳恵は人形を処分しようとするも、なぜか上手くいかず、事態はより深刻になっていく――。

 一度、手に入れたら手放すことができない奇妙な人形。そこに隠された深い秘密が明らかになった時、あなたの心にはきっと恐怖以外の感情も生まれるはずだ。

 狂気的な人間の言動やハラハラするストーリー展開はスリリングに描こうとすればするほど白けて見えてしまうこともあるが、著者・夜馬裕氏はこのあたりのさじ加減が絶妙だ。ドキドキ感を過度に煽り立てないのに、じめっとしたスリルはたしかに伝わってきて、読み手の鼓動は早くなる。

 また、やや現実離れした展開の後に現実感あるストーリーがきちんと差し込まれるため、作品に漂うシリアス感が失われることもない。本作は、現実主義な方でも興ざめせずに読み終えられる一冊である。

 そんな著者の筆力だけでも十分スリリングな作品に仕上がっているのだが、作中にはゾクゾク感を引き立てるユニークな工夫も施されていて面白い。ちょうどいいタイミングで、どこか不気味な印象を与えるイラストや写真が出てくるのだ。

 加えて、二次元コードを読みこめば、物語に登場する配信者の動画や防犯カメラの映像などが実際に見られるという粋な計らいも。こうした工夫に触れると、佳恵が購入した奇妙な人形はこの世のどこかに実在しているのでは…と背筋が寒くなる。独自の世界観を完璧に作り上げ、読者を奇妙な世界に引き込む本作の完成度からは、著者や出版社の本気が伝わってきた。

 巻末には映画では語られないシークレットストーリーも収録されているので、劇場へ足を運んだ後でも楽しめることだろう。ぜひ、映画と小説の両方を味わって、より一層物語の魅力を感じてほしい。

文=古川諭香

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