「オーダーは探偵に」シリーズ著者最新作! パンを愛する変人教授が名推理!? パン×理系×日常の謎! ほっこり新感覚ミステリー【書評】
PR 公開日:2025/5/8

札幌にある謎の移動式ベーカリー。出店場所も営業時間も非公開の神出鬼没で、40~50代の三つ揃いのスーツを着た英国紳士風の男性が営んでいる。しかもその紳士の本職は大学教授!? さらに、彼は謎を解くのが大の得意で……。
そんな不思議なパン屋の店主が探偵役を務めるのが『教授のパン屋さん ベーカリーエウレカの謎解きレシピ』(近江泉美/ポプラ社)。「オーダーは探偵に」シリーズの著者がおくる、ほっこり日常系ミステリーだ。
おれの命運はクリームパンによって尽きた。丸焦げのトーストみたいにお先真っ暗で、がぶりとやったらこぼれそうなくらい詰まったツナマヨみたいにぎゅうぎゅうの八方塞がり。とどめにクリームパンで丸裸なんてあんまりじゃないか。
この物語はある青年の嘆きから始まる。嘆いているのは、福丸あさひ。ハードな仕事に悩みながらも、休みの日はパンの食べ歩きを楽しむ、パンを愛する青年だ。ある日あさひは、札幌の時計台の前にSNSで話題の移動式パン屋「ベーカリーエウレカ」を見つけた。意気揚々と店内に入ると、続いてやってきたのは警察官。なんでも昨日近くで観光客が襲われる事件があったのだといい、目撃された犯人と同じパーカーを着ていたあさひは任意同行をかけられそうになる。すると、三つ揃いのスーツ姿、英国紳士風の甘い顔立ちの店主は、パンへのアドバイスと引き換えにこの事件の謎を解き明かすと言う。味方が出来てほっとするあさひだが、紳士が語り始めたのは、クリームパンのウンチク!? 紳士は「君、クリームパンがなぜこの形状か考えたことは?」なんてあさひに鋭く質問してきたけれど、あさひは一体どうなってしまうのだろうか。
このパン屋の紳士——本職は大学教授で、副業でパン屋を営んでいる亘理(わたり)の変人っぷりたらない。彼はパンを愛しすぎているが故に、どんなことでもパンの話題に結びつけてしまう。おまけに、理系の知識を織り交ぜて語り出すのだ。たとえば、クリームパンならば、中身のクリームが漏れないための工夫について突然話し始め、コロネの話になれば、なぜか「ベルヌーイの螺旋」についての話まで持ち出すからおかしい。止まらない亘理の語りと、どうしてその話題になったのか分からず困惑するあさひの姿に、思わずクスッと吹き出してしまう。だけれども、かなりの変人とはいえ、亘理のその推理力は抜群。「ぜひとも三つの質問させてください」と言い出すと、たった三つの質問で、事件の真相を見抜いてしまうのだ。
札幌の時計台、張り巡らされた地下街、雪まつりで知られる大通公園。札幌の街を舞台に、あさひは亘理とともに、あらゆる謎を追うことになる。理想の彼女と出会いたいと騒ぐ大学生、突然素直になった嘘つきの酔っ払いおじさん、亘理の「ムスコ」を名乗る少年……。どの人物のどの謎も、亘理は、パンを愛する理系教授ならではの知識、たとえを用いながら、解き明かしていく。その鮮やかな推理には誰もがハッとさせられそうだ。そして、解き明かされる真相に心がほかほか温められる。まるで、とびきり美味しいパンを食べた後のような気分。ほくほく温かい気持ちにさせられるこのミステリーを、あなたもご賞味あれ。
文=アサトーミナミ