ヨシタケシンスケ 自己肯定感の低さが決定的になった瞬間は。自分を好きじゃなくても生きるヒントをもらえる、イラスト&インタビュー集【書評】
公開日:2025/5/14

自分を好きになりましょう、と誰かが言うのを聞いたことがない人はたぶん、いないだろう。でも、自分と向き合えば向き合うほど、いやなところ・だめなところばかりが目につくし、自分に価値があると思いたくて試行錯誤してみると、もっと自分を大事にしなさい、なんて言われたりもする。いったい、どうすればいいんだよ、と思ったことのあるすべての人に、ヨシタケシンスケさんのイラスト&インタビュー集『だったらこれならどうですか』(白泉社)を読んでみてほしい、と思った。
本書は、2025年3月20日からCREATIVE MUSEUM TOKYOにて開催されている「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」のガイドブックも兼ねた1冊である。東京の会場があまりに広かったため、2022年から巡回していた展覧会を増量せざるを得なくなったものの、地方の会場ではそのすべてを展示することがかなわないため、記録を残しておこうと思った、というのが本書の制作の経緯らしい。

東京に足を運べなかった人は、見れば見るほど悔しくなってしまうかもしれないが、ヨシタケさんの遊び心がどんなふうにかたちになるのか、ヨシタケさん直筆の企画案やグッズの設計図などが見られるのはうれしい。なぜなら、一つひとつ確認するたびに「こんなふうに発想できたら、日常もほんの少し楽しくなるかも」と、生きるヒントをもらえるからだ。
地方でしか展示されなかったというスケッチも必見なのだが、冒頭の気持ちを抱えている人たちに必読なのが、やはりインタビューである。「自分を好きになれって言われても、そんな簡単にできたら苦労しないよねー」な、いつものヨシタケ節が炸裂しているのだが、個人的に泣きそうになってしまったのは、小学生時代の思い出が語られていた部分だった。

同級生で仲良しのいとこと一緒に犬に追いかけられたとき、いとこを置いてひとりだけ逃げ帰ってしまった経験から、自分はけっきょく人を救わない人間だ、何かあったら自分だけ逃げるんだ、と思い知らされて、自己肯定感の低さが決定的になったというヨシタケさん。同じ経験をして、同じように自分を信じられなくなった人がいた! と衝撃を受けると同時に、そんな人が世の中にはたくさんいるんじゃないかな、と思ったのだ。
人に優しくしたい、できることなら社会の役に立ちたいし、自分よりも他者を優先できるような人でありたい。根っこではそう願っているから、どうしたってそれができない自分に落ちこみ、好きになれなくなってしまう。小さな失敗と挫折を重ねて、ヒーローにはなれなかった人たちに、それでも生きていていいんだと寄り添ってくれるのがヨシタケさんなのだと、だから作品がこれほど多くの人に愛されるのだと、改めて気づかされ、そして救われる言葉が、本書にはたくさん並んでいるのだ。
だったらこれならどうですか、というタイトルのとおり、自分を好きになれなくても、前向きになれなくても、こういうやり方なら日常を楽しめるかもしれないと思える、そんな優しい1冊である。
文=立花もも