瀬尾まいこ最新作『ありか』。作中に登場しない「椅子」が目を引く表紙。人気ブックデザイナー名久井直子が明かす、装画誕生秘話【瀬尾まいこ×名久井直子対談】

文芸・カルチャー

公開日:2025/6/10

子どもも大人も未来のかたまり

――『ありか』で颯斗が、「姉さんはひかりと一緒にいるからかな、何も影響されてない自分の気持ちだけの考えを持っているんだね」と美空に言う場面を思い出しました。そのセリフも、荒井さんの作品に通じている感じがします。

名久井 ああ、たしかに。そういう共鳴があったからなのか、荒井さんはお願いしていた挿画以外に、いくつかスケッチを描いてくださったんですよ。たぶん、私に指定されるのではない、物語から受け取ったものを自由に描きたくなって描いた、ただそれだけだったと思うのですが、あまりに素敵だったので、カバーを外した表紙などに使わせていただきました。

瀬尾 本当に、素敵な本にしていただいて、ありがとうございます。過去をふりかえるって、あんまり気持ちのいいものじゃないので、あんまりやりたくないし、基本的にいやだったことは全部忘れてしまうんだけど、子どものころの気持ちや、20歳より前の経験、今に繋がるすべてに触れながら書きあげたのが『ありか』なんです。荒井さんの装画とともに、こうして私の手元から巣立ってくれるのが、とても嬉しい。

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名久井 書いたことで、あまり触れたくなかった記憶や経験は、昇華されたんですか。

瀬尾 そうですねえ。小説を半分くらい書き進めたときに、結末が思い浮かんで「探していたもの、欲しかったものがここにあったんだ」と気がついたんです。「ありかが、あった」と。いやなことにも触れたけど、ひかりに私の娘を重ねて、娘が話していたこと、私に見せてくれたものもたくさん詰め込んだことも、よかったんだと思います。娘は私と違って、いろんな人に物おじせず話しかけられるし、いろんな場所に出かけるのも好きで、夜になるといつも「明日が楽しみだから早く寝なきゃ!」とわくわくしているんです。自分には関係ない入学式のことも「楽しみだな~」って言いながら出かけていく。そんな娘と一緒だから、描けたものもたくさんあるんじゃないかなと思います。作中にも書いたけど、本当に、子どもは未来のかたまりですね。

名久井 大人だって、未来のかたまりですよ。ということが、この小説を読むと、しみじみ感じられるんですよね。困っている人に手を差し伸べて、気を遣わせないように支え合っている、『ありか』に登場する人たちのようになりたいって願えた瞬間から、私たちの未来はきっと変わっていく。そう信じられる小説だから、ひとりでも多くの人に『ありか』を読んでほしいと思います。

取材・文=立花もも 撮影=川口宗道

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