「みんなとちがう」ことを笑う友だちが周りにいたら… 個性を認め合う大切さを教えてくれる絵本。累計50万部突破! ソーシャルスキルを学べる「ガストンシリーズ」第3弾【書評】
公開日:2025/6/30

何か一言、いわなきゃ気が済まない人というのは、いる。みんなで盛り上がっているところに「そんなもの」と水を差したり、誰かが気に入っているものを「ダサい」と馬鹿にしたり。もしかしたら悪気はなくて、相手のために指摘してあげている、と思っているかもしれないけれど、そんなものはよけいなお世話で、ちょっとした否定の積み重ねで、人は自信を失っていく。だからこそ、自分とはちがう相手の選択を、みんなとはズレた自分の感情を、「それもいいね!」と笑いあえる世界を生きたいと、絵本『ちがって いたって いいんだよ』(オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ:著、垣内磯子:訳/主婦の友社)は思わせてくれる。
主人公は虹色のたてがみをもつ、ユニコーンのガストン。先生に連れられて、クラスのみんなと「ふしぎのもり」を散歩することになり、お母さんがつくってくれた特別な三日月形のお弁当を手に、わくわくしている。友達は、みんなのお弁当と違ってかっこいい、と褒めてくれるけれど、レオナルドンというクラスメートだけは「赤ちゃんっぽい!」と馬鹿にする。せっかくの気分が台無しになって、ガストンはごはんも食べたくなくなってしまう。

そんなことが、散歩中は、ずっと続く。みんなで楽しもうとシンバルを持ってきた子には「ギターは弾けないの?」。角も蹄もキラキラした子には「ユニコーンには似合わない」。新しい蹄鉄を手に入れた子には「僕のほうがかっこいい」。おやつを手作りしてくれた子には「何個、食べたの?(笑)」。正直、読んでいると腹が立ってくる。いちいちうるさいし、こうやって場の空気を壊す人っているよなあ、と過去のいやな記憶が引っ張り出されてイライラもした。

ガストンも、たまりかねて怒る。「もういいかげんにしてよ!」「世界にはいろんな色や味があるんだよ!」と。お菓子が全部同じ味で、歌が全部同じメロディじゃ、つまらない。似ていたっていいけど、違ってもいい。ちょっとずつ違うから、世界は楽しいんだということを、レオナルドンに訴える。その姿に、自然と「そうだそうだ!」と賛同したくなるのだ。児童心理学で修士号をとった著者だけあって、「いやな気持ち」すらも追体験させることで「もっとこうすればいいんだ」とみずから思うことのできる、その構成が巧みである。

一方で、大人になったからこそ、一言いわずにいられないレオナルドンのことも気になってしまう。誰かを傷つけていることに気づけない。怒られても、斜に構えて笑って気にしない。そんな彼は確かに「イヤな奴」だけど、イヤなことをいわずにおれない何かがきっと彼にもあるのだろう、と。ガストンも、本当はキラキラしたものが好きなのに、レオナルドンは好きじゃないという。もしかしたら彼も、誰かに否定されたことがあるのかもしれない…と想いを馳せる。
否定の連鎖は、ネガティブな感情しか生まない。誰かと「違う」ことをおもしろがって、のびのび生きられる世界を子どもたちには生きてほしいし、そのためにも本作のような絵本が広く届くことが必要なのだろうな、と思う。
文=立花もも