池上彰と考える「どうしたら戦争がなくなるのか」? 歴史に詳しい人も苦手な人も一緒に見つけたい、戦争のない未来【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/7/18

君と考える戦争のない未来
君と考える戦争のない未来池上彰/集英社

 2025年は戦後80年である。日本人にとって戦争は遠い記憶になりつつあるのかもしれない。

 しかし世界では今も多くの人が戦争によって苦しみ、命を落としている。その事実にどう向き合うか。改めて考えてみる時間を持つのに、丁度いい節目ではないだろうか。

君と考える戦争のない未来』(池上彰/集英社)は、「どうしたら戦争がなくなるのか」を「想像し、考えてみる」ための、伴走者のような一冊だ。

撮影/山下みどり
撮影/山下みどり

 本書では「そもそも戦争とは何なのか」、人類が誕生してから「なぜ」「どうやって」戦争が始まってきたのかという大前提から語られている。

 それを踏まえた上で、「実際にどういう戦争が起こって来たのか」という概説を古代から簡単におさらいし、主に日本の状況を中心とした近現代の戦争とその後について、詳しく書かれている。

 同時に、人類が試みてきた戦争をなくすための施策がいかに失敗続きだったかも分かり、「戦争をなくす」ことの難しさを痛感するような内容でもあった。

 さて、本書の感想に入る。非常に分かりやすかった。

 数々のメディアで活躍されている池上彰さんの説明が分かりやすいことは、既に多くの読者がご存じのことだろうが、改めて感じ入ってしまった。

 本書は中学生から大人まで、「幅広い」年齢層が読めるし、「幅広い」知識段階の人が楽しめると感じた。

「第二次世界大戦あたりの歴史なんてほぼ覚えていない」という方でも、流れが一気に分かり、頭に入りやすいと思う。一方で「歴史はそれなりに詳しい」と自負しているけれど、「知識に穴抜けがある」方でも満足感を得られるはずだ。

 ちなみに私は後者である。日本史は好きなので大体の流れは分かるのだが、穴抜けになっていた部分――日中戦争から第二次世界大戦につながる流れなど、再理解できたのがよかった。

 また些細なことだが「批准(ひじゅん)」や「講和」という教科書によく出てくるものの、いまいち意味が分からない単語を平易に言い換えてくれている点は非常に理解しやすいと感じた。

※「批准」は「守りますと約束すること」。「講和」は「戦争の終わりを相互に確認し、平和になるための合意のこと」だそう。

 読者には本書を読みながら「もし自分がその時代の指導者だったら」「もし自分がその時代に生きており選挙の投票権を持つ国民だったら」「同じ状況下だったらどう行動したか」等々、たくさん想像してほしい。

 私も考えてみたいと思う。

「不信感から戦争が続いてしまう」といったようなことが書かれている箇所の「不信感」という言葉が妙に心に引っ掛かったので、「では安心感があれば戦争はなくなるのか」「安心感のある世界」とはどういう世界で、どうしたら実現するのかを想像し、考えてみたい。

 一人一人が「少しでもやってみる」ことで、戦争のない未来が近づいてくるはずだ。この夏、そんな一時を持ってみるのも、悪くないのではないだろうか。

文=雨野裾