「死の呪い」をスマホ画面+小説で読む?新感覚のモキュメンタリー・ホラー『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』【書評】
PR 公開日:2025/8/20

『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(知念実希人/双葉社)は、“スマホ特化型モキュメンタリー”と言うにふさわしい、極めて斬新な構成のモキュメンタリー・ホラーである。
大学生の一色和馬は、オカルト専門ライターになった大学時代の先輩から頼まれた、“都市伝説の調査”という怪しいバイトを引き受ける。事前資料によると、“ドウメキ”と呼ばれる怪物の棲むゴーストタウンが山奥にあるらしい。どうせよくあるフェイクだろう、と高をくくって始めた調査の先には、恐るべき体験が待ち受けていた……。
本書の特徴は、全ページにわたって片面がスマホ画面で構成されていることだ。チャット履歴やアプリの画面、カメラを通じて見える景色などと、それを補足する文章を交互に読み進める。主人公がスマホを手に持つ臨場感が、身に迫る恐怖の生々しさに拍車をかける。なお、書籍のサイズも文庫本より小さなスマホに近いサイズにするというこだわりようだ。この時点で「手に取る価値あり」と評価できる実験作である。
まるでドキュメンタリーのような体裁で、リアルな体験に没頭できるフィクション作品を「モキュメンタリー」という。モキュメンタリー・ホラー小説は近年注目を集めており、挑戦的なヒット作も数多く生まれている。
リアルさを出す技法はいくつかあるが、本書はスマホという身近なデバイスにフォーカスし、画面越しの恐怖体験に特化している。ホラー映画界では、主人公自身の視点で物語を展開するPOVホラーというジャンルが確立されているが、それを本に落とし込んで再解釈するような、斬新なアイデアだと感じた。
もちろん、小説として捉えると文章量は少ない。「だったら文章じゃなくて映像でもよくない?」と思う読者もいるかもしれないが、文章でなければ表現できない展開が、見事に織り込まれていることは事前に伝えておきたい。映像ではなく小説に期待する満足感を、十分に味わえる。
なお、本書はモキュメンタリー・ホラー『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』(9月18日発売)の前日譚となる一冊で、両作品が描く出来事や登場人物、テーマは密接に関連している。
どちらから読んでも楽しめるが、個人的には『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』から読んでほしい。本書で起こる出来事の根幹や全貌を明らかにし、より濃厚な恐怖体験へと誘うのが『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』という立ち位置である。
最後に、ホラー好きの読者に向けたアピールポイントをひとつ書いておく。恐怖の対象である“ドウメキ”は、容赦がないタイプの怪異だ。一息つく間も与えず、畳み掛けてくる。それでいて、ねっとりとまとわりつくような厭らしさも併せ持つ。静と動、両側面を備えた怪異は魅力的である。ホラーのヒット作にはアイコニックな怪異の存在が欠かせないが、“ドウメキ”に次期スターのポテンシャルを感じた。気になった方は、ぜひご自身で本書を手に取り、“ドウメキ”に恐れおののいてほしい。
文=宿木雪樹