名門校の中学入試でも出題された、夏の読書感想文にピッタリな1冊! 引っ込み思案な少女がクラスメイトと奏でる、爽やかな音楽×青春小説【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/6

ソノリティ はじまりのうた
ソノリティ はじまりのうた(佐藤 いつ子 / KADOKAWA)

 夏を制するものは受験を制す――そんな言葉に身が引き締まる中学受験生やその保護者は少なくないだろう。そんな勝負の夏に読んでほしいのは、佐藤いつ子さんの小説。入試・学参問題に40件以上起用され続けている『駅伝ランナー』(KADOKAWA)や、2025年の中学入試で物語文として最多の20校に採用された『透明なルール』(KADOKAWA)、令和元年度神奈川県優良図書の『キャプテンマークと銭湯と』(KADOKAWA)など、「友情」「家族」「成長」という中学受験頻出のテーマをみずみずしく描き出す彼女の作品はどれも、中学入試に向けた対策にうってつけなのだ。

 特にオススメなのは、合唱コンクールをめぐる群像劇『ソノリティ はじまりのうた』(KADOKAWA)。宮下奈都さん・朝比奈あすかさんらの推薦を受けて2022年に刊行されたこの本は、刊行直後から、毎日小学生新聞や朝日中高生新聞、読売KODOMO新聞、日本教育新聞、SAPIX会報誌「さぴあ」7月号などのメディア・受験情報誌に取り上げられ、翌2023年の中学受験では、学習院中等科、洗足学園中学高等学校、桐蔭学園中学校、立命館中学校ほか有名中学14校の国語問題で出題。教育関係者の間で大きな話題を呼び、まだまだ注目度が高い。個性豊かな5人の中学生による群像劇で綴られ、章ごとに視点となるキャラクターが変わっていくから、きっと子どもたちは、自分と似た悩みを持つ登場人物と出会うことができる。だから、夏休みの読書感想文にもピッタリ。感想文を書くのが苦手な子も、自分の気持ちを文章に乗せやすいだろう。

 舞台は、緑山中学校。1年5組の生徒たちは、間近に控える合唱コンクールに向けて練習を続けるが、クラスにはなかなかまとまりが出ずにいた。吹奏楽部というだけで、合唱コンクールの指揮者を任された内気な早紀は、幼馴染の天才ピアニストに助けられながら、どうにかクラスをまとめようとするが、上手くいかない。そんな早紀を見つめるのは、「一生懸命やる」ということを恥ずかしく感じるバスケ部の男子。その男子に部活でライバル心を燃やしているバスケ部のエースは合唱の練習に参加せず、クラスの仕切り役の女子はそれにご立腹だ。

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 どうしてこの作品が多くの教育関係者の心を惹きつけたのか。それはこの作品が、コンプレックスを抱える中学生の姿をリアルに描くとともに、多彩なテーマに触れているためだろう。声変わり、成長痛、初潮などの身体の変化。圧倒的な才能を持つ友達と、どうもパッとしないように感じる自分という存在。初恋の戸惑い。友達、家族との関係……。思春期には本当に葛藤がつきものだ。だけれども、彼らは悩みながらも、仲間とかかわるうちに、次第に自分の中の「本音」に気づいていく。そして、少しずつ、でも確実に成長していくのだ。

 バラバラだったクラスメイトたちは、徐々にひとつのメロディを奏で始める。一人ひとりの歌声が重なり合い、鳴り響く場面は、圧巻。大人だって心揺さぶられずにはいられないだろう。なんと美しい描写なのか。本で描かれたその音色が、心のすみずみまで染み入るように響きわたる。彼らの歌声は、重なり合うことで、互いの魅力をいっそう際立たせていく。仲間とともに何かをつくりあげる達成感。その魅力がこの作品には存分に描き出されている。

 大変な中学受験の対策が、ちょっぴり気の重い読書感想文が、こんな素敵な本でできるだなんて。この青春小説は、是非とも親子で読んでほしい。ああ、さわやかな群像劇に胸がいっぱいだ。等身大の悩みを抱える中学生たち。その成長の物語は、きっと子どもたちにも大きな気づきを与えてくれるに違いない。

文=アサトーミナミ