「観ると死ぬ映画」の噂は本当か―― 発売即重版! 人気作家・梨氏も評価するモキュメンタリーホラー小説コンテスト大賞受賞作【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/12

ある映画の異変について目撃情報を募ります
ある映画の異変について目撃情報を募ります(海藤文字/スターツ出版)

 モキュメンタリーホラーとは、ドキュメンタリーを装ったホラーのこと。近年『近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)、『かわいそ笑』(梨/イースト・プレス)などのヒットにより、注目を集める演出手法だ。

 その人気を受け、このたびスターツ出版が小説投稿サイト「ノベマ!」内で「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」を開催した。作家・梨氏が解説を寄せるこのコンテストで、大賞に輝いたのが『ある映画の異変について目撃情報を募ります』(海藤文字/スターツ出版)。「観ると死ぬ映画」を題材に、ネットからじわじわと呪いが拡散していくさまを描いている。

 ある時、映画ブロガーのMOJIは、山奥の廃村を舞台にしたインディーズホラー映画『ファウンド・フッテージ』を観賞する。「失踪した若者たちが残した映像」というふれこみのその映画には、一瞬だけ不気味な「白い男」が映っていた。だが、その感想をブログに投稿したところ、「白い男など出現しなかった」とのコメントが……。不思議に思うMOJIだったが、やがて他の映画にも白い男が出現するようになってしまう。さらには、『ファウンド・フッテージ』を観た人たちや関係者が次々に不可解な死を遂げ、噂は一気に拡散。同じく映画ブロガーのSUZUも真相究明に動き出し、事態は思わぬ方向へ転がっていく。

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 モキュメンタリーホラーという形式を採っているため、本作にはいわゆる「地の文」がない。全編ブログやメール、SNSへの投稿、映画のオフィシャルサイト、新聞記事などで構成されているが、その使い方が実に巧みだ。ブログのコメントやSNSを介して、徐々に侵食してくる「白い男」の怪異。時には匿名投稿者からの「『ファウンド・フッテージ』にかかわるのはやめた方がいい。あれは映画ではない」というコメントも交え、その恐怖を臨場感たっぷりに描いている。モキュメンタリーだからこそ虚実の境界線があいまいで、読者も決して安全地帯にいられるわけではない。自分もいつ当事者になるかわからず、しばらくは映画館に行くのが怖くなるような真に迫った怖さを感じられる。

 終盤になり事態が急展開を迎えると、短文のダイレクトメッセージやメールが高頻度で交わされ、現場の緊迫感が伝わり、読み手の心拍数も上がっていく。伝播する呪いの真相、ラストに待ち受ける展開など、最後の最後まで気が抜けない。

 ちなみに著者の海藤文字氏は、作中に登場する映画ブロガーMOJIと同姓同名。そんな仕掛けも、「え、これって本当にあった話?」とゾクッとさせてくる。ぜひとも本書を映画化して、読者をさらに混乱させてほしい。

文=野本由起

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