これは実話か虚構か? 全国の書店で起きた恐怖体験を、著者目線で描くホラー小説【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/21

書店怪談
書店怪談(岡崎隼人/講談社)

 面白すぎた。そして、怖すぎた。――特に本好きには後を引くホラーだ。

書店怪談』(岡崎隼人/講談社)は、端的に言ってしまえば書店にまつわるホラー小説……なのだが、一部実話なのか全てが創作なのか。現実と虚構の境目が分からなくなる“仕掛け”がたくさん張り巡らされた、かなり怖い本である。

 あらすじはこうだ。

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 作家の岡崎隼人は、書店の怖い話を聞いたのをきっかけに、次回作を書店ホラー小説にしようと思い立つ。取材がてら、全国の書店員から恐怖体験を募集したところ、予想に反して数多くのエピソードが寄せられた。

 ヒット作を生み出したい岡崎と編集者の菱川は、書店ホラーという新しい分野に可能性を感じ、さらなる取材を続ける。すると、全く異なる場所にある書店なのに、奇妙な一致をみせる怖い話が送られてきて……。

≪子供≫、≪時間だよ≫、≪エプロンの紐が解かれる≫……。

 岡崎と菱川は興味を持ち、その話を送ってくれた書店員に直接会ってみることに。だが情報が集まってくるにつれ、菱川の挙動がおかしくなっていく。この話、深入りしてはいけなかったのか――。

 本作は読者を飽きさせない数多くの要素が詰まった一冊である。

 まず、全く接点のない書店員二人から送られてきた、≪子供≫の幽霊に関する謎を追う、ミステリー要素だ。真実が明らかになっていく過程は、自然と惹き込まれてしまう。

 次に、本筋ストーリーの合間に差し込まれる、書店員から送られてきた実話怪談のパートだ。(実際の書店員から投稿された話なのか、「実話として」作者が創作したのかは分からないのだが、以下「実話怪談」と書かせてもらう)。

 短いものは十数行、長いもので7、8頁くらいのエピソードが度々差し込まれている。ショートショートのような読み心地で面白い。しかも、時々「良い話」もあったりして、緊張していた読者をホッとさせてくれたりする。

 ……なんて気を抜いていると≪犬≫の話。ほっこり話じゃなかったのか。とんでもない伏線だったことが分かり意表を突かれた。この話だけでなく、実話怪談だと思っていた話が本筋ストーリーの伏線だったりする。この構成も非常に巧みだ。もしかして書店員から投稿された話、全部伏線になっているのだろうか。

 そして、実在しそうな出版社や書店名が書かれていたりするため、かなりのリアリティがある。そもそも登場人物が著者の岡崎隼人氏であり、冒頭にも書いたがフィクションなのか創作なのか、その境目が分からなくなってしまうのが本当に怖い。

 この小説に書かれていることは、この本の創作過程で本当に起こったことなのではないだろうか。だとしたら、私がこの小説を持っていること自体、アブナイのではないか……等々、色々と本気で考えてしまう。だからこそ冒頭で面白すぎる、そして「後を引く怖さ」だと書かせてもらった。

 またミステリー部分が一応の完結を迎えた後、怒涛の実話怪談パートが続くのだが、あれは何なのだろうか? 説明がないので分からない。本当に怖い。もしかして百物語なのか。怖いから数えない。≪あなたに言っています≫って何? 怖い……。この小説、本棚に置いといて大丈夫かな? あなたに言っています。まさか何も起こるはずないよね。こわい。あなたに言っています。書店ホラーという新しい分野のあなたに言っています。本作は夏の暑さをあなたに言っていますフッ飛ばしてくれること間違いなし。ぜひ読んでみてあなたに言っていますください。

文=雨野裾

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