“ひとりでも幸せな老後”を送るために必要なことは?『死に方がわからない』『老い方がわからない』に続くエッセイ第3弾、テーマは「孤独」【書評】
PR 公開日:2025/9/18

気ままなひとり暮らしを楽しんでいても、歳を重ねていくと、「体が動かなくなったら?」「今、自分に何かあったら?」という不安が生まれる。かといって、今さら誰かと一緒に暮らすのも、新しい人間関係を築くのも難しく、モヤモヤを抱えたまま日々を過ごしているという人も少なくないのではないだろうか。そんな人の心のお守りになる1冊が、『繋がり方がわからない』(門賀美央子/双葉社)だ。
著者は、文芸や美術などの分野でライティングや書籍を手がける文筆家・門賀美央子氏。本書は、『死に方がわからない』『老い方がわからない』に続く「わからないシリーズ」のエッセイ第3弾だ。
『死に方がわからない』では単身女性が綺麗に人生を閉じる方法を、『老い方がわからない』では老後を楽しく生きる道を模索した著者が、次に挑むテーマは「孤独」だ。
著者はまず、単身者や孤独は寂しく、避けるべき事態であるという社会の空気に警鐘を鳴らす。結婚の一般化や「家族や絆は大切」という論調など、孤独な状態を許してくれない社会が単身者を生きづらくしていると指摘する。50代の著者は、自分の孤独を「自ら選んで楽しむ孤独=solitude」だと位置づけるが、現実問題として、社会保障や世の中の仕組みは単身者にやさしくなく、孤立死の問題も深刻だ。そのため著者は本書で、老後の社会的孤立を回避しながら、自由な孤独を楽しんで生きていくためには何をすべきなのか、徹底的に考えていく。
本書では、主人格である「美央子」を中心に、「論理好き(理央子)」「少女趣味で夢見がち(夢央子)」「冷笑主義(冷央子)」などの7つの人格(モンガーズ)たちが、著者の脳内の多様な視点として登場。個性豊かな彼女らが自由に、時に激しく意見を交わしながら、孤独に関する文学や実際の社会問題、繋がり方をよく知る人への取材など、さまざまな角度から解決策を模索していく。
最初はモンガーズの間では、「自ら選んだ孤独の何が悪い?」という意見が多数派だったが、理想に燃える「夢央子」の勢いと、ポジティブな孤独を獲得したはずの著者がひとりで心を支えきれなくなった経験が決め手となり、著者は、いざというときに支え合えるゆるい繋がりを得る道を歩み始める。しかし、著者の中にある「悲観」が暴れ出して――。さてモンガーズは、どんな結論にたどりつくのか。
本書の最大の魅力は、ひとりの楽しさを知る人に寄り添う視点だろう。著者自身、孤独を愛し、煩わしい人間関係や信頼した人の裏切りも経験し、人と繋がることに慎重なスタンスを取っている。老後のことを考え始める年代の読者は、今さら人との付き合い方を変えるなんてキツいことはしたくないはずだ。だからこそ、モンガーズの葛藤に共感できるし、自分にフィットした孤立の回避法を見つけられるだろう。
一方で本書は、人が孤独を感じる理由や、単身者が生きづらい社会の構造など、孤独の問題を掘り下げているため、人間関係の状態に関わらず、「孤独」に関心がある人にも読み応えがある。将来の孤立が不安な人も、ずっと孤独を楽しみたい人も視界が開ける、新しい「おひとりさま」エッセイだ。
文=川辺美希