梨「モキュメンタリーホラーのファン層が変わってきた」空前のモキュメンタリーホラーブームの理由【梨×スターツ出版編集者対談】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/1

 2025年3月、スターツ出版が開催する「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」の受賞作が発表された。7月には大賞受賞作『ある映画の異変について目撃情報を募ります』が刊行され、即重版決定。さらに、長編賞に輝いた『四ツ谷一族の家系図』も9月28日に刊行された。

 コンテストを主催したスターツ出版 林朝子さん、企画をサポートした人気作家・梨さんに、同コンテストの開催経緯や、今モキュメンタリーホラー小説が人気を集める理由について伺った。

『ある映画の異変について目撃情報を募ります』のレビューを読む

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約250作品の応募から、リアリティを重視して受賞作を選考

──スターツ出版の小説投稿サイト「ノベマ!」では、これまでにも数多くのコンテストを開催してきました。このたび、「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」を実施するに至った経緯を教えてください。

林朝子さん(以下、林):今、出版業界ではモキュメンタリーホラー小説が人気ですよね。弊社でも挑戦したいと考え、「ノベマ!」に作品を投稿していただくためにコンテストを開催することにしました。

 そこで協力を仰いだのが、梨さんです。「モキュメンタリーホラー小説の書き方」という解説を寄せていただいたことで、これまで「ノベマ!」に投稿したことのない新たな書き手の投稿を増やしたいという狙いがありました。

──林さんは、もともとホラーがお好きだったのですか?

林:そうなんです。子どもの頃からホラー映画が大好きで、数えきれないくらい観てきました。古き良きホラー映画、観客をワッと驚かせるようなホラー映画をたくさん観てきましたが、ホラー小説にハマったのは5、6年前。そのきっかけになったのは、やはりモキュメンタリーホラー小説でした。

 ホラー映画は目の前に怖さを提示してきますが、モキュメンタリーホラー小説は日常にじわじわ入り込んでくるような恐怖を味わえます。文章だからこそ想像をめぐらす怖さがありますし、読者自身が恐怖を作りあげていくのが楽しくて。小説だけでなく、『〇〇式』『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』のようなモキュメンタリーホラー映画にもハマっています。

──梨さんは、どういう立場でこのコンテストにかかわっていたのでしょうか。

梨:応援団長として旗を振る係です。選考にはかかわらず、林さんがお話しされていた解説文を寄稿するのが私の役割でした。「ノベマ!」には、普段私が活動しているホラージャンルとは明らかに違う投稿者・読者がいらっしゃいます。ホラーの沼に引きずり込むいいチャンスなので、「こういう風に書くと面白いかもね」とお伝えすることで少しでも投稿者が増えればと思いました。

──そもそも梨さんは、スターツ出版に対してどんなイメージをお持ちでしたか?

梨:私の青春は、スターツ出版で構成されたと言っても過言ではありません。あ、もちろん太田出版や角川ホラー文庫もめっちゃ読んでますよ(笑)。

 スターツ出版は個人的に大好きな出版社で、私の本棚の一角はスターツ出版のブルーライト文芸が占めていますし、スイーツが大好きなのでOZmall(オズモール)にもお世話になっています(笑)。野いちごジュニア文庫の「総長さま、溺愛中につき。」シリーズ、「ウタイテ!」シリーズも読んでいます。

林:え、そこまでカバーしているんですか! 小中学生向けの作品ですよ。

梨:あと、クイズやなぞなぞで物語が進んでいく野いちごぽっぷの作品も好きです。

林:すごい! ぐっと対象年齢を下げた小学生向けのレーベルです。

梨:スターツ出版は、他の文芸出版社よりも広い範囲の読者を取りに行ってますよね。溺愛系も異世界転生ものも実は40~50代に好まれるジャンルですが、スターツ出版はずっとティーンエイジャーの読者を獲得しつづけています。それがすごいなと思っていました。

 ホラージャンルは、20~30代がボリュームゾーンなんです。でも、スターツ出版のコンテストなら、もっと間口が広がるかもしれないと思って。最終的に、どれくらいの投稿が集まりましたか?

林:250作品近く集まりました。「ノベマ!」のコンテストとしては、すごく多いですね。ほぼ新規の作家さんで、選考会も大変盛り上がりました。

梨:特別賞を受賞した『[下書き]ゲーム業界の七不思議.docx』の著者drikaraさんは、SCP財団(創作コミュニティ)の方ですよね。「第四境界」(クリエイターチーム)で「事故物件鑑定士試験」を作った方です。他にも、インターネットのホラー畑で活躍している方も、何人かいらっしゃいました。

林:おかげさまで、さまざまなジャンルの方に投稿していただきました。皆さんが得意分野を生かしてくださったため、幅広い作品が集まったと思います。

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