梨「モキュメンタリーホラーのファン層が変わってきた」空前のモキュメンタリーホラーブームの理由【梨×スターツ出版編集者対談】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/1

じわじわと自分の生活に入り込んでくるような、モキュメンタリーホラーの怖さ

──梨さんは、小説以外の分野でもモキュメンタリーホラーを手がけています。さまざまなメディアがある中で、小説ならではの面白さはどこにあると感じていますか?

梨:そもそも「モキュメンタリー」という言葉は、ホラー映画などの映像制作に関する用語です。1980年頃、「ドキュメンタリー映画を完全な創作物として作ったら面白いんじゃないか」「細切れの映像を継ぎ合わせれば、本物っぽく作れるのではないか」というムーブメントが起き、『食人族』のような話題作が生まれました。その後も『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』、最近では『近畿地方のある場所について』などがヒットしています。

 これを小説で作ると、例えばSNSやブログ、新聞記事の切り抜きや辞書、ポスターなどさまざまなメディアの細切れの短文をパッチワークのように継ぎ合わせることになります。そして、最終的に出来上がった模様がどれだけ美しいかが、作品の面白さにつながるんですね。

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 実は、この形式は「ノベマ!」のようなインターネットの横書きの文章と相性がいいんですよね。インターネットでサクッと読んで怖いものを作るうえでは、モキュメンタリー小説という建て付けがぴったりだと思います。

──林さんは、モキュメンタリーホラーの人気の理由を、どのように分析していますか?

林:昔ながらのホラー映画は、怖いものが好きな人たちが観ていました。自分とは関係のない、非日常を表現する作品として突き抜けた怖さを楽しんでいたのだと思います。ですが、モキュメンタリーホラーは自分の生活にじわじわと入り込んでくるような怖さが描かれます。面白さが伝わりやすくて間口も広いので、ホラー好きに限らず広い層に楽しまれているのだと思います。

梨:最近は、モキュメンタリーホラーのファン層も変わってきたように思いいます。2000年代前半に人気だったモキュメンタリーホラーは、『ほんとにあった! 呪いのビデオ』や白石晃士監督の映画『ノロイ』のように、「これは実話である」とうたい、視聴者もそういうものとして受容してきました。ですが、ここ数年は「これはモキュメンタリーホラーです」と言ってしまうんですね。最初からフェイクだとわかったうえで楽しむものになっています。

 そのため、かつては作者がしゃしゃり出てはいけないジャンルでしたが、今では作家性が認められつつあります。作り手側は、商業作品としてブランディングできるようになりましたし、受け取る側も「この作者のモキュメンタリーホラーが好き」「このモキュメンタリーの演出、めっちゃいいよね」と言えるようになりました。潮流が大きく変わりましたし、だからこそファン層が広がったのだと思います。

取材・文=野本由起 写真=編集部

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