全米大ヒット作『ハウスメイド』日本語版が話題に!予想外の展開に息をのむホーム・スリラー・ミステリー小説【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/8

ハウスメイド
ハウスメイド(著:フリーダ・マクファデン、訳:高橋知子/早川書房)

ハウスメイド』(著:フリーダ・マクファデン、訳:高橋知子/早川書房)は、ある家に住み込みで働くことになった主人公を待ち受ける謎と恐怖を描いた、ミステリー長編である。全米200万部の大ヒットを記録した本作は、日本でも発売直後から注目を集めている。

 前科持ちの主人公・ミリーの職探しは難航していたが、住み込みで働くハウスメイドの面接に受かる。その豪邸には、精神状態が安定しない美しい妻と、一筋縄ではいかない一人娘、そんな二人のケアに努める温厚で誠実な夫の三人が暮らしていた。ミリーは屋根裏の小部屋を住まいとして与えられるが、小さな窓は開けられず、外から鍵がかけられる仕様に違和感を覚える。それでもようやくありつけた仕事だからと、彼女は一生懸命に働くが……。

 本作最大の魅力は、読者を翻弄するどんでん返しにある。その仕掛けには、感情の流れや予想を計算づくで操るような精緻さがある。家庭内の秘密を明かす存在として、外部から雇われたメイドが活躍する作品は他にいくつも思いつく。が、あらすじを読んでそれらを思い浮かべた方には、類似の作品だと侮ることなかれ、とお伝えしたい。

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 海外小説に苦手意識がある方や、翻訳された小説を読んだことがない方にも、本書は勧めやすい。というのも、登場人物が極めて少なく、国独自の文化に対する知識も求められないからだ。頻発するカタカナの固有名詞に混乱したり、なじみがなくピンとこない描写に首をかしげたりすることもないだろう。

 そう、シンプルなのにとてつもなく面白い。それが本作の人気に火をつけている理由のひとつだ。わかりやすい設定でありながら、読者に不安や緊張を抱かせ続ける語り口こそが、本作の醍醐味である。過度に暴力的だったり、登場人物への感情移入を強いたりするようなエモーショナルなシーンはない。しかし、じわじわと追い詰められ続ける。そうしてかかり続けたプレッシャーを解放する物語の緩急も、素晴らしい読書体験につながる。

 著者のフリーダ・マクファデン氏は作家のほか脳外科医という肩書を持ち、脳障害の専門医として現役で働いている。誰にでも読みやすく面白い物語の根幹には、そんな著者の専門性と、エンターテインメントをロジカルに追求する姿勢が見受けられる。

 また、個人的に特筆しておきたいのは、主人公・ミリーの魅力である。前科持ちで職も住まいもない、アウトローなオーラをまとったキャラクターだが、読み進めるうちに第一印象とは異なる魅力が描かれていく。物語の展開が面白いだけでなく、主人公に惹かれていくことで「ハウスメイド・ミリーのことをもっと知りたい」という気持ちが高まり、ページをめくる手が止まらない。

 読者の熱を受けて、2025年12月には続篇の刊行が予定されている。原書ではすでに3作目まで登場しており、『ハウスメイド』は世界的なサスペンス・シリーズへと成長している最中だ。家庭という日常空間に仕掛けられた恐怖は、どの国の読者にも響く普遍のテーマである。日本はもちろん、世界中で本シリーズが愛読され、大きなムーブメントとなることを願っている。

文=宿木雪樹

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