キュートな“ぼっち”女子が計画する殺人を絶対〈未遂〉で終わらせろ! 新感覚の青春×ミステリ【書評】
公開日:2025/10/8

探偵はいつだって手遅れ。誰かが死んでしまった時点でもう取り返しはつかないのに、そこで事件の犯人を暴いたところで…と考えたことはないだろうか。それよりも必要なのは事件を未然に防ぐこと。殺人事件を“未遂”で終わらせることの方が、ずっと重要で、ずっと価値があるはずだ。
すべての殺人事件を“未遂”で終わらせる探偵がいたとしたら——海冬レイジ氏による『未遂同盟』(海冬レイジ/KADOKAWA)はそんな高校生探偵の物語。ミステリであると同時に、青春小説でもあるライトノベルだ。殺人計画を練るのは、とびきりキュートで妄想力抜群の女子たち!? そんな殺人計画女子高生と、どうにかその犯行を止めようとする男子高校生のやりとりに思わずニヤニヤ。それでいて、ときに、人の生き死にがかかった緊迫の場面に手に汗握らされる新感覚の作品なのだ。
主人公は、男子高校生・和十村写楽(わとむら しゃらく)。ある時、突然「人の殺意」を視ることができるようになった彼は、各々の殺意をメラメラと燃やす危険な“ぼっち”の女子高生たちと関わることになる。
誰に対しても塩対応で〈図書室の公爵令嬢〉と呼ばれる同級生・月出里笑猫(すだち えま)。〈住所:公園〉の自称ソロキャンパー・伊那亀美波(いながめ みなみ)。お嬢様学校で孤立する〈氷の女王〉姫宮心愛(ひめみや しあ)——どの殺人未遂犯も可愛らしく、すぐに目が離せなくなってしまったのは、きっと私だけではないだろう。物語の合間に挿入されている、ほうき星氏によるイラストがまた素晴らしい。ページをめくるたびに、思わず胸キュン。探偵役の写楽も、ときに女子たちに思わずドキッとさせられることも。だけど、それぞれの殺意を胸に秘めた彼女たちは油断ならない。可愛いのに危険。何を仕出かすか分からない。しかし、彼女たちがどんな方法で殺人を犯そうとしているのか、ターゲットは誰なのかはなかなか見えてこない。写楽に彼女たちの犯行を止めることはできるのだろうか。私たちはハラハラドキドキさせられながら、その動向を追うことになる。
そして、読み進めるうちに、ふと違和感に気づく。それは、「どうして写楽はこんなにも殺人を止めたいと思うのだろう」ということ。そりゃあ誰だって人が殺されるのは嫌だろうが、写楽の金科玉条は「決して目立たず、なるべく他人と関わらず、波風を立てない」ことのはず。それなのに危険な女子たちと積極的に関わり、嫌々ながらも全力で殺人を阻止しようとするさまには誰だって違和感を覚えるはずだ。その違和感は、実は、クライマックスにかけた驚愕の展開に関わっている。まさか写楽がそんな思いを抱えていただなんて! 写楽の意外な行動原理に、思いがけない展開にハッとさせられ、焦るようにページをめくっていた。
殺人を何より憎む写楽。殺人を未遂で終わらせようと奔走するこの探偵の運命をどうかあなたも見届けてほしい。彼が何を思い、殺人を止めようとしてきたのか。写楽が抱える痛みと、彼が辿り着く真実を、ぜひともあなたも、あなた自身の目で確かめてほしい。笑って、ときめいて、そして心を抉られる。この異色の青春ミステリは、最後まであなたを離さない。
文=アサトーミナミ