雨穴「変な」シリーズ、待望の最新作!主役・栗原が、祖母の死の真相を知るため『変な地図』の謎を解く【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/10/31

「私は若い頃、人を殺しました。何人もの命を奪いました」

変な地図
変な地図雨穴/双葉社)

 ドキリとする文章から始まる『変な地図』(雨穴/双葉社)は、ホラー作家兼YouTuberとして人気を博す雨穴氏の「変な」シリーズ最新作だ。前作『変な絵』は世界36ヵ国累計200万部突破の世界的なミリオンセラーとなっている。

『変な家』『変な絵』に続き、本作は「地図」が題材となっており、「何かがおかしい“マップ・ミステリー”」と銘打たれている。主人公は「変な」シリーズにおいて、「謎解き」でお馴染みの栗原(くりはら)だ。

 若かりし頃の栗原は、就職活動に苦戦していた。面接で「どうして建築学を学ぼうと思ったのか」と企業に問われるも、うまく答えることができないからだ。きっかけは、同じく建築を学んでいた母の影響なのだが、栗原が5歳の時に亡くなっている。それ以降、母のことを話そうとすると呼吸ができなくなるという「発作」に悩まされていた。

 そんなある時、栗原はその母が死ぬ直前まで追い求めていたことが、「祖母が不審な死を遂げた理由」だと知る(栗原の母にとってはお母さん)。栗原の祖母は、知的で明るく“強い”人だった。だが「亡くなる少し前、急に元気がなくなった」という。そしてこの世を去ってしまった……。

 その祖母の家に隠されていたのが、「奇妙な地図」である。

 本作の表紙にもなっているこの地図には、

「気味の悪い7体の妖怪」
「その妖怪の元へ向かわんとする女性」
「お堂」
「湖らしきもの」
「無数の墓石のようなもの」

 ……が描かれていた。

 この古地図の謎を解くことが、祖母の死の理由に繋がると信じ、解明しようとしていた母の遺志を継ぐことを決意した栗原は、古地図の場所が、ある海沿いの廃集落だと突き止め、現地に足を運ぶ。そこで「奇妙な人身事故」に巻き込まれるのだが――。

 やがて全ての謎が明らかになった時、「絶対に隠しておきたい」廃集落の悲劇が明らかになる。その裏に隠されていたのは……。

 この「変な」シリーズは、簡潔で読みやすい文章と、所々差し込まれる何かがおかしい絵図(解説図)によって、「普段はあまり本を読まない方」や「中高生」にも刺さり、大ヒットに繋がったのではないかと個人的に感じている。

 その一方で、「読書好き」や「大人」にもちゃんと楽しめる内容になっている。そう感じる理由は、しっかりとした「人間ドラマ」が軸にあるからだろう。

 ただ謎を解くだけのスッキリ感が得られるのではなく(それもあるのだが)、その裏に隠されている、実に人間らしい感情から引き起こされた“真実”に、多くの読者が共感を持ち、感情を揺さぶられるのではないだろうか。

 この「分かりやすさ」と「謎解きのエンタメ感」、「普遍的な人間の感情ドラマ」が見事に融合されているからこそ、「変な」シリーズは多くの人に愛されているのだと思う。もちろん、本作『変な地図』もまた、そのバランスが絶妙なのだ。

「新たな小説のジャンル」と言っても過言ではない本作、ハラハラしたり、ドキドキしたり、ゾワッとしたりしながら、ラストの“真実”まで辿り着いてほしい。

文=雨野裾

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