『時かけ』『サマーウォーズ』との共通点は?細田守が『未来のミライ』で描いた“家族”と“未来”【ロングインタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/21

子どもの存在が未来に繋がっている、と異議申し立てしたかった

子どもたちの現実を見つめ 過去をも味方に付けて

 社会をより良い未来へとデザインするためには、子どもたちを見つめる眼差しが、子どもたちの実の親だけでは足りない。「赤の他人のおじさん」も子どもたちを見つめ、子どもたちの未来を語り出した時に、本当の意味で社会が変わる。

「子どもという存在が一番、社会の中でないがしろにされてるというか、社会の中で一番話題に上らないなぁということはいつも思っているんですよ。例えば待機児童の問題って、あれだけメディアで騒がれたのに一向に解決する気配がない。大人たちの政治の場で、後回しになっているんだろうなと容易に想像できますよね。大人たちは自分の目の前の現実であるとか、老後不安を解消することに夢中で、選挙権もない子どもたちのことは半ば無視している。でも、子どもたちにとってより良い環境を整備することって、未来の社会に向けての投資じゃないですか。子どもの存在が、この社会の延長線上にある未来に繋がっているんだっていうことを、映画を通して異議申し立てたいって気持ちがあるんですよ。それはきっと、僕がアニメーションを作っているからかもしれない。アニメーションってそもそも、子どもが観ることが前提であり子どものために作るものです。常に子ども側に立つことを宿命づけられた媒体であるからこそ、自然とそういう思考になる気がします」

 細田守は『時をかける少女』で「未来」を描き、以降の作品で「家族」を描き出した。2つの道のりが合わさった結果生まれた『未来のミライ』で描かれていたのは、子どもとは「家族の未来」である、ということだった。そして、もうひとつ。子どもとは「社会の未来」そのものである、ということだ。

advertisement

「『おおかみこどもの雨と雪』を作る時、シングルマザーの現実を知るために、社会福祉事務所や児童相談所へ取材に行きました。そこで知ったのが、子どもの貧困という現実でした。母子家庭においては、子どもたちが生活水準以下の暮らしを営んでいる割合が決して少なくないんです。子どもの貧困は、今や社会問題として新聞の一面で報じられるようになってきましたが、当時はまだ水面下にありました。家族を題材にした映画を作っていたからこそ、現実に少しだけ早く気付くことができた。そういった気付きを積み重ねていった先に、今回の作品があると思います。だからやっぱり、道のりが合わさってるんですよね。子どもたちの現実を見つめてね、昔はダメだったとか否定するんじゃなくて、過去を味方に付けたうえで、未来というものをどう描き出すのか」

『未来のミライ』は既に世界90の国と地域で配給されることが決定している。この映画を観る人が増えれば増えるだけきっと、未来はより良く変わる。そう信じさせてくれる力が、この映画には、ある。

ほそだ・まもる●1967年生まれ。富山県出身。金沢美術工芸大学卒業後、91年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。アニメーターを経て、99年に『劇場版 デジモンアドベンチャー』で映画監督デビュー。2005年にフリーとなり、06年に公開した監督作『時をかける少女』(原作・筒井康隆)が国内外の賞を総なめに。以降、3年に1作のペースで劇場用長編アニメーションの制作を行う。

取材・文:吉田大助 写真:藤原江理奈

原作小説『果てしなきスカーレット』
著:細田 守
角川文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://kadobun.jp/special/scarlet/
10月24日(金)発売

児童文庫版『果てしなきスカーレット』
作:細田 守 挿絵:YUME
角川つばさ文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://tsubasabunko.jp/product/hateshinakisukarred/322505000194.html
10月24日(金)発売

映画『果てしなきスカーレット』
原作・脚本・監督:細田 守
https://scarlet-movie.jp/
©2025 スタジオ地図
11月21日(金)公開