キングオブコント2025ファイナリストのトム・ブラウン布川。札幌出身だから目指したい、芸人としての最終目標とは?【布川ひろきインタビュー】
公開日:2025/10/11

キングオブコント2025ファイナリスト・M-1グランプリ2024ファイナリストのお笑いコンビ「トム・ブラウン」の布川ひろきさん。2024年1月より、ダ・ヴィンチWebでエッセイ「おもしろおかしくとんかつ駅伝」を連載している。本連載では、布川さんの日常や思い出が色鮮やかな表現で綴られている。
「おもしろおかしくとんかつ駅伝」の連載開始から1年以上経過したことを受け、布川ひろきさんにインタビューを敢行。エッセイ連載に対する周りからの反響やM-1グランプリラストイヤーを終えてからのキングオブコントへの挑戦、今後の目標にいたるまでたっぷりと語ってもらった。
エッセイ連載に対する周囲からの反応
――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、「おもしろおかしくとんかつ駅伝」の連載開始から1年8カ月経過しました。ダ・ヴィンチWebでのエッセイ連載に関して、周りの芸人仲間からの反響はありましたか?
布川ひろきさん(以下、布川):実は、芸人って知り合いがエッセイ連載してても「読んでるよ」とかあんまり言わないんです。多分、ボケが少ない真面目なエッセイを書いてると、恥ずかしいと感じる芸人の方が多いんですよね。
――芸人さんは自分のエッセイを「読まれると恥ずかしい」と感じるものなのでしょうか?
布川:そうなんです。だからあんまり感想言われることはないんですけど、この前インスタントジョンソンのスギ。さんからは「実は、エッセイ読んでるんだけどあれいいね」って声をかけてもらいました。「でも、嫌でしょそういうの言われんの。結構真面目に書いてるからさ。見られたくないとは思うんだけど、荻窪の話面白かったからちょっと言っちゃった」って。
――ご家族からの反響についても教えてください。
布川:家族にはエッセイのことはあんまり話してないんです。ただ、妻は毎日僕のことをエゴサーチしているので、知ってる可能性はあります。でも、感想を言われたことはないですね。
――布川さんもエゴサーチされるのでしょうか? また、布川さんはInstagramのアカウントを運用されていますが、Xでの反響もチェックされているのでしょうか?
布川:Xはやってないのですが、Yahoo!のリアルタイム検索で自分の名前を1日1回エゴサーチしています。
――1日1回だけなんですね。
布川:エゴサーチでは、どうしても褒めてもらっているコメントが目に入りやすいんです。だから、1日に何度も見ていると自分が「称賛されている」側の人間だと思ってしまう。それが嫌なので、エゴサーチは1日1回だけにしています。
――なるほど、確かに芸人さんの名前を入れて発信するときは、ポジティブな内容の場合の方が多そうです。
布川:そうなんです。あと、僕らはテレビでものまねをよくやるので、そのネタを探したりもしてるんです。誰かが「トム・ブラウンの布川が誰誰に似てる」って言ってたら、それをメモしてものまねのレパートリーに加えてます。そういう意味で、エゴサーチは「ネタ探し」の意味合いが大きいです。
これまでの連載を振り返って思う、お笑い的な表現と読みやすさとの葛藤

――今までの連載では、「日向坂46」について書かれた回が特に反響が大きかったです。実際にファンからの声は布川さんにも届いていたのでしょうか?
布川:そうですね、それこそエゴサーチしているところで感想を見る機会がありました。僕の文章を読んで、「自分はこういう理由で日向坂が好きだったんだと理解できた」と言ってもらえて。こうしてダ・ヴィンチWebでのエッセイを通して自分の「好き」を言語化できた人がいるなら、人のためになったのかなと思いましたね。
――布川さんの日向坂46のお話は圧倒的に反響が多かったので、ぜひまた書いていただきたいなと思っています。
布川:最近日向坂46の1期生が全員卒業したので、タイミング的にももう1回書いてもいいかもしれないです。M-1が終わった後、佐々木久美ちゃんにたまたま会ったんですよ。だからそのとき、「卒業おめでとうございます」って伝えました。そうしたら、向こうも「M-1お疲れ様でした」って言ってくれましたね。
――「言語化」という行為は簡単ではないと思います。エッセイでは、言語化はもちろん、過去のできごとを振り返ったり自分と向き合ったりといういつもとは違う行動が必要になると思うのですが、実際にエッセイを書いてみて難しかった点はありますか?
布川:僕は言語化が得意な方ではないので、難しいと感じることは多かったです。普段のネタでも言葉より擬音や動きで表現することが多くて。
例えば、句読点ひとつを取ってもどこに入れるべきなのか分からなくて、結構困ったりしました。文章の改行も、「ここで改行するべきではないかもしれない」と悩みながら書いています。
――そうなんですね。でも、連載初期から比べると、布川さんの文章はどんどん読みやすくなっているなと感じています。
布川:連載初期は、エッセイを自分で何度も読み直してたんです。何度も読んでいると「文章がつながりすぎていて読みづらいな」「ここに改行はいらないかもしれない」というポイントに気づけるようになって。それで、できるだけ読みやすくなるように調整しました。
――連載初期はお笑い的な表現が多かったと思うのですが、回を重ねるごとにストレートな表現に変わってきましたよね。文体を変えていくにあたって、どのような心境の変化があったのでしょうか?
布川:僕は漫画家の「つの丸先生」と仲良くさせてもらってるのですが、先生から「あれ駄目だぞ」って言われたのがきっかけです。「お笑い的な表現をしたいのは分かるけれど、あれは見てられないぞ」って言われたんです。だから、ちゃんと書いた方が良いんだなと思いました。
実際、日向坂46の話は僕なりにちゃんと書いたんです。そうしたら反響が良かったので、やっぱりエッセイは真面目に書いた方がいいんだろうなって。最初のころはお笑い芸人らしい文章を書こうと思いすぎていました。
――12回のお話は、トム・ブラウンのラジオ「ニッポン放送圧縮計画」で話されていた、行きつけのイートインのお話でしたね。こうしたエッセイのテーマは、ラジオで話されたことがきっかけで思いつくことが多いのでしょうか?
布川:そうですね。ラジオで話したことがきっかけになることが多くなってきました。前はどんなテーマにするかかなり悩んでいたのですが、最近は30秒くらいで考えるようにしています。そっちの方が無理なく書けるだろうなと思っているし、実際に書きやすくなった気がします。
テレビとラジオでは話すことが全然違うのですが、ラジオやトークライブにはエッセイと近いものを感じています。今後はラジオやトークライブで反響が良かったテーマを、エッセイでより深掘りしていけたら良いなと思っています。
――実際、エッセイの中でも「今思いついたのですが」というようなフレーズが登場するので、ラジオやトークライブのように即興性を感じました。
布川:確かに、即興性みたいなところもありました。最初はエッセイを一気に書き上げていたのですが、「(表現的に)これは読者に伝わらないだろうな」と。でも、最近は「伝わらないところは伝わらなくてもいいか!」と思いながら書いています。ただ、今になって読み返してみると、初期の話は書き直したいと思うほど恥ずかしいです。
――文章を書く技術が向上しているからこそ、実感するのではないでしょうか。
布川:そうかもしれません。でも、当時の文章は『こち亀』の1巻みたいなものだと思っているんです。最初期の両さんは強面で怖い雰囲気だったけれど、200巻のころには子どもでも見れるファミリー向けの作品になってたじゃないですか。初期の話はそういうイメージで読んでもらえたらいいなと思います。
トム・ブラウンの狂気的なネタ作りの根底にあるのは「お客さんからの反応」

――トム・ブラウンといえば狂気的なネタが魅力ですが、ネタ作りの中で特に意識しているポイントはありますか?
布川:とにかく「お客さんの反応」を意識しています。僕はネタの中で爆発することがあるんです。一般的にイメージされている爆発音は「ドカーン」だと思うんですけど、それだとウケが悪いので、「ブッブン」みたいな音にしてみたり。僕らの場合は、あまりデフォルメしない方がウケるのが分かったので、リアルに近い音になっています。
――そうした擬音の表現が大事になってくるのでしょうか?
布川:そうなんです。僕らの場合は、そうした細かい表現で笑いの量がかなり変わるので、かなり気にしてネタ作りをしています。
――かなりお客さんの反応を参考に調整されてるんですね。
布川:僕は完全にお客さんの反応を見てますね。だから、「お客さんを無視して自分を貫いてすごい!」と言ってくれる人をたまに見かけるんですけど、実はまったくそんなことないっていう。
――M-1でも舞台の上からお客さんの反応を見ていて、男性はお腹抱えて笑ってたのに、女性は全然笑っていなかったと伺いました。
布川:そうですね。完全にそう。女性は「スンッ」とした顔をしていました。
M-1ラストイヤーを終え、キングオブコントへシフトするトム・ブラウン
――今後はキングオブコントにシフトしていくとのことですが、ネタの軸も漫才からコントにしていく予定なのでしょうか?
布川:そういうわけではないです。漫才も全然やります。この前も新ネタライブがあって、漫才も2本やりましたし、コントは3本やりました。そもそも、僕らが最初にやっていたのはコントなんです。
――トム・ブラウンは漫才のイメージの方が強かったです。
布川:これからは、漫才とコントの比率は半々ぐらいになるかもしれないですね。もちろん、漫才も新ネタを作っていくつもりです。
――今までのM-1に挑戦できる期間にも、キングオブコントに挑戦されていたのでしょうか?
布川:やってましたね。2年前までは普通に出ていたんですけど、 2022年のM-1で落ちたとき「これは漫才に集中しなきゃいけないぞ」と危機感を持って。だから、直近2年はエントリーしていなかったんです。
だから、2023年の単独ライブは漫才だけにしようとしたんです。でも、みちおがコントをやりたいって言ってて。まあ、 結果的には漫才だけにした方が良かったので、自分の考えを改めてほしいですね。
――単独ライブもされていると思うのですが、単独ではキングオブコントに向けた調整が増えていくのでしょうか?
布川:そうですね。単独ライブでもやっていこうと思っています。もちろん、漫才は漫才でちゃんと力を入れていく予定です。
去年、おぎやはぎさんとライブで一緒になったとき、そのネタが全然古くなかったことに驚いたんですよ。しかも新ネタで、それがめちゃくちゃ面白いっていう。高頻度で舞台で漫才をしているわけではないのに古くない新ネタをやるって、相当すごいことだと思うんです。僕にはそれができる自信がないので、舞台に出続けようと思っています。
お笑い以外の活躍の広がりと、トム・ブラウンとして目指したい今後の目標について

――近年、トム・ブラウンはポケモン番組へ出演されたり、絵本を作られたりと子ども向けの活動が増えているように感じています。こうした活動は、今後も増やしていこうと考えているのでしょうか?
布川:子ども向けの番組やイベントにも全然出たいです。もう、6年くらい前から「出たいです」って言い続けています。…まあ、そうした仕事はないんですが。
――そうしたファミリー向けの仕事やバラエティで「素」を出すと、漫才の狂気的なキャラクター性が薄まってしまうという懸念があるような気がするのですが…。
布川:最初のころはそうした懸念もありました。テレビに出始めると、人間性を知られてしまって漫才がウケづらくなることは実際にあるんです。でも、僕らはそういうことがそれほどなくて。
おそらく、漫才をうまく作れる人は、こうやった方がウケるということが分かってるから、そういう人が陥るケースだと思うんです。でも、僕らはただただネタをぶつけてるだけなので、番組に出たからといって漫才のウケの量は変わりませんでした。
どの番組も「地」でやっているので、キャラが崩れるとかないんです。
――あのキャラクターは「地」だったんですね。
布川:みちおなんてあれが「地」の「地」です。「殺します!」みたいなボケをするけれど、あれは「地」なんですよ。
――そうなると、トム・ブラウンのネタはみちおさんの「地」を活かしたネタ作りになると思うのですが、どこから生まれてくるのでしょうか?
布川:設定自体はみちおが考えているんです。僕がボケを考えるときは、徹底的に「みちおに合うかどうか」を軸にしています。「お前はそのボケは言わないわ」とか「お前がやったら怖すぎる」とか。反対に、「お前がやったら弱すぎるわ」と言って調整することもあります。
例えば、みちおがカッターナイフで人の手を切る展開があったとすると、そこまで怖くないんじゃないかと思うんです。カッターナイフじゃなくて、日本刀で斬るくらいの方がいいんじゃないかみたいな判断をしています。
――写真集を出したり、子どもに絵本を読み聞かせしたりとトム・ブラウンとして「芸人以外の活動」が広がってきていると感じているのですが、今後目指していきたい目標はありますか?
布川:色々なところで言わせてもらっているのですが、僕は札幌市出身なので「さっぽろ雪まつりの雪像」になりたいです。おそらく、北海道出身の芸人ではタカトシ(タカアンドトシ)さんくらいしか雪像になったことがないはずなので。
多分、雪像になるには色々なステータスや人気を高めないと無理だと思うんです。だから、ゴールをさっぽろ雪まつりの雪像に定めて、逆算しています。
――雪像になりたいと思う理由を教えてください。
布川:やっぱり幼少期からずっと見てきたので、札幌出身の人間としての憧れが大きいです。僕にとってさっぽろ雪まつりは当たり前にあるものなので、雪像になれれば人間としてひとつ「成功したのかな」と思える気はします。
――逆算してどのようなことに取り組んでいこうと考えているのでしょうか?
布川:まずはキングオブコントで優勝します。それから、「天才てれびくん」に出演したいです。あとは、主婦層からの人気を獲得するために、「夫が寝たあとに」にも出たいですね。
――なるほど。
布川:準レギュラーになると思ってます。急には無理だとしても、そういうような要素をいっぱい積み重ねていきたいですね。同時に、そういう好感度の高い仕事だけになると、芸人として終わってしまうという懸念もあります。
だから、ちゃんとススキノのアダルトな知識もしっかり勉強しておこうと思います。僕のやっぱ根本には、そういうエッチな要素があるので。
――良い面だけの人間ではないことを見せていきたいという…。
布川:そうですね。良い面だけを出そうとすると「嘘」になるなと思っていて。好感度を上げるためであっても、嘘をつくのは嫌なのでちゃんとススキノにも行きます。
――ススキノにも行くけれど、雪像にもなれたらかっこいいですね。
布川:もはや無敵だと思いますね。ススキノで「さっき見たよ!」とか言われたいです(笑)。
いや、そんなこと言わないと思いますけど、もし言ってもらえたらめっちゃうれしいですね。そうやって総合的な評価を高めていきたいです。
取材=金沢俊吾、文=押入れの人、写真=干川修