有吉弘行の“メモ”が、270ページ超えの本に?じわじわくる、引き込まれる、やる気が出る…『有吉メモ』の不思議な魅力【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/10/15

有吉メモ
有吉メモ有吉弘行/双葉社)

 何年も前から、テレビをつけると必ずそこには有吉弘行がいた。テレビに出る人の中でいちばん忙しいのではないだろうかと思う。そんな超売れっ子の有吉氏が『有吉メモ』(双葉社)という本を刊行した。彼が書き連ねたメモをまとめた一冊である。なぜ「メモ」なのか。「メモ」で何を伝えているのか。本書に綴られたメモをいくつか紹介しながら、読んだ感想をメモ+α程度に書いてみようと思う。

「キンタロー。がいつもおもしろい」(P8)

 たしかに、キンタロー。はおもしろい。でも最近ちょっとキンタロー。から離れていた人は、即座にネット検索してしまうのではないだろうか。キンタロー。は最近どうしているのかと。筆者も同じように検索したところ、彼女のSNSを見つけて、改めてキンタロー。のおもしろさにハマってしまった。これは、ただのメモではなく「有吉メモ」なのだ。吸引力と影響力の大きさに驚いている。

「ダメなやつはビニール袋の音をずーっと出す。」(P11)

 これはきっと、ちょっと毒の入ったうれしいツッコミ、だと思っている。有吉メモを読んだ人は、今度から部下をこんなふうに注意してはどうだろうか。「周りが迷惑していることに早く気づくべき」とはっきり伝えるよりも、言われたほうのダメージは少ないはずだ。むしろ、この行為自体をネタにしてしまえるくらいの余白がある。注意された側の気持ちがよくわかる上司として、頼ってくる部下が次々と増えてしまうかもしれない。おそるべし、有吉メモがしめす包容力。

「もう俺の知ってるドーナツではない。」(P34)

 今話題のドーナツを知らないことが発覚したとき、焦ってはいけない。自分が遅れているのではなく、ドーナツのほうが時代を超越しているのだ。俺が追いつけなくなるほどのスピードで——。さりげない一言からじわじわとオモシロの想像が広がっていく。言葉の力ってすごい。有吉メモにどんどん巻き込まれ、まったく飽きることがない。

「こっちの方が繊細だから『繊細なんです』って態度されても高圧的に感じるよ。こっちの方が繊細なんだから」(P129)

 大事なことは2回言うこと。それは有吉メモだってそう。大事なことは2回言おう。まさに、伝える力。

「質問に答えないのなら、政治家もお笑いも簡単だ。」(P143)

 芸人は答えてなんぼ。ネタを振られたら、みんなが待っていられる時間内になんか言う。言えなければバッサリだ。それは政治家も同じこと。政治家にとって大切なのは、任期中に結果を出すことなのだろう…たぶん。すなわち、やる気と突破力の問題だ。

 270ページ超えの書籍に記された、たくさんのメモ。それは、有吉氏が持つ吸引力・影響力・包容力・飽きさせない言語力・伝える力・やる気・突破力をしっかりと伝えていた。

 いちばん驚いたのは、有吉氏がいつも締切きっかりにメモを送っていたということだ。あんなに忙しいのに。

●なぜ「メモ」なのか

 なにしろ1ページに1つのメモしか綴られていないので、余白には読んだ人がメモを書き込める仕様となっている。いうなれば、世界中に一冊しかない、オンリーワンのコラボ作品だ。小説やエッセイのメモを書けば有吉氏との共著になるし、ネタを書き込めばコンビになった気分にだってなれるだろう。

 それにしても、なぜメモだけなのか。それについては、有吉氏から編集部に送られたメールが文中に記されているため、ぜひ読んでみてほしい。メモさえしておけば。メモの意味。メモの水掛け論。メモの概念。メモの思い出…。有吉氏に倣ってすべてのページをメモで埋めたとき、メモの真実が見えてくるかもしれない。

文=吉田あき

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