スペシャルティコーヒーの第一人者が「哲学」と「科学」でコーヒーを解く【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/10/31

珈琲哲学と科学
珈琲哲学と科学(堀口俊英/新星出版社)

 日本のスペシャルティコーヒー文化を牽引してきた業界のパイオニアである堀口俊英氏。近年は、還暦を超えてから東京農業大学で博士号を取得し、科学的手法によってコーヒーの香味や成分を研究。「理論」と「実践」を往復しながら、今もなおコーヒーの本質を探究し続けている。

珈琲哲学と科学』(堀口俊英/新星出版社)は、そんな堀口氏の近年の活動の集大成といえる内容だ。

 タイトルは一見すると突拍子もないものに感じるが、「哲学はコーヒーに対する価値観や美学を探求するもの」「科学は風味の本質を明らかにするための手段」という説明は、読み進めると深く納得できる。本書は、コーヒーの美味しさや文化を、「哲学」と「科学」の両輪によって解き明かしていく1冊なのだ。

 そして「理論」と「実践」、「哲学」と「科学」のように、物事の両面を大切にする堀口氏の姿勢は、彼自身の生き方であると同時に、スペシャルティコーヒー文化の真骨頂でもある。

 スペシャルティコーヒーの世界は、単に味を競い合うものではない。堀口氏はその発展の核心を、「生豆の品質追求」と「サステナブル(持続可能な)コーヒー」という2つの理念が車の両輪のように進化してきたことにあると書く。

 品質を高めるための探求と、持続可能な社会を実現するための倫理的実践。どちらか一方ではなく、両方を同時に動かしていくことが、コーヒーという文化を豊かにしてきたのだ。

 その体現者である堀口氏自身も、2003年からNGOとともに東ティモールのフェアトレードの活動に関わってきた人物でもある。また近年は沖縄産コーヒーの発展を後押しする活動にも尽力している。理念だけを語るのではなく、堀口氏は自ら現地に赴き、生産者と向き合いながらコーヒーの未来を作ってきたのだ。

科学的であり、哲学的でもある。
食の研究者であり、サステナブルな社会を目指す実践者でもある。
自身の事業を発展させながら、業界全体のためにも働く。
思索家であり実践家でもある――。

 あらゆる物事の両面を併せ持っているところに、堀口俊英という人物の独自性があり、スペシャルティコーヒーの文化の面白さがある。その両面性が、本書を1冊の読み物としても面白くしている。読後には、コーヒーがただの嗜好品ではなく、世界と自分をつなぐ“思考と実践の入口”であることに気づかされるだろう。

文=古澤誠一郎

◆新星出版社のライフマガジン『Fun-life!』
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