直木賞作家・大島真寿美「超天才の少女マンガ家たちが綺羅星のごとく現れた、特別な時代」かつて“100万少女”が夢中になった「少女マンガ雑誌」。編集部を舞台にした小説を今書いた理由《インタビュー》
公開日:2025/10/25

昭和の時代、少女マンガ界では若い女性マンガ家たちの才能が開花し、彼女らの作品が連載されたマンガ雑誌は100万部を売り上げた。一方で男女雇用機会均等法の成立以前の出版社は男性編集者が中心で……。マンガ家の担当になりたいと編集部で働く女性たち、少女マンガの編集部に配属され戸惑う男性など、編集部で働く人々と時代を描いた『うまれたての星』(集英社)。著者は、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で第161回直木賞を受賞した、作家・大島真寿美さんだ。令和の今、昭和の少女マンガ雑誌の編集部を舞台に書きたかったこととは。お話をうかがった。
――1969年、人類が月面着陸をした年から始まる、少女マンガ誌『週刊デイジー』『別冊デイジー』編集部が舞台の物語。『週刊マーガレット』『別冊マーガレット』がモデルだと思うのですが、なぜ本作を書こうと思われたのでしょう。
大島真寿美さん(以下、大島) 子どもの頃から、読んでいる本や雑誌の版元(出版社)が気になるタイプだったんですよ。『マーガレット』も夢中になって読んでいたから「この雑誌をつくっているのはどういう人なんだろう」と集英社の名前をチェックしていたんですよね。それで、10年以上前、集英社の担当編集者と次に何を書こうかという話になったとき「少女マンガ編集部のお話を書きたいな」という話をしたんです。ちょうどその頃、50周年を記念して『わたしのマーガレット展 マーガレット・別冊マーガレット 少女まんがの半世紀』という展覧会が催されていたんですよ。
――2014年のことですね。

大島 そのときは、取材と称して展示を見に行き、グッズを爆買いして終わりました(笑)。というのも、書きたい気持ちはあっても、何をどうしたら物語になるのかがわからず、フェードアウトしてしまったんです。ところが2019年、直木賞の贈賞式に来てくれた古い小学館の知り合いの方と食事に行ったら、昔、『少女コミック』の編集者をやっていたことがわかった。お酒を飲みながらおもしろおかしく聞いていたらふと「これを書こうと思っていたんだ」ということを思い出して、書けるような気がしてきたんですよね。
――具体的に構想が浮かんだんですか?
大島 というより焦点が合ったという感じですね。「こういう人たちにいっぱい話を聞けばいいんじゃない?」と。それで、集英社の担当編集者に改めて「ずいぶん時間がたってしまったけど、書こうと思います」と連絡をとり、まずは取材するところから始めました。
――〈少女漫画を作っているというのにおじさんだらけの編集部〉で〈煙草をすぱすぱ吹かし、吹きだす汗を拭いながら、いい年をしたおじさんらが漫画の柱の文言を考えている〉という描写もありましたが、読みながら、そうか、そうだよな、と感じ入りました。男女雇用機会均等法が成立するより前、少女マンガであろうと仕事は男性のものだったのだよな、と。
大島 そうなんですよね。取材した時点ではもう、みなさん、おじいさんでしたけど(笑)。編集者魂をいまだに携えて、話もおもしろくて、若々しい方ばかりでした。それであるとき、二人の編集者に話をうかがったあと「うまれたての星だね」ってつい口をついて出たんです。そこで、タイトルが決まりました。書きはじめるのはそれから1年近くたったあとだけど、帰りの新幹線で「空の彼方にアポロがいる。」という一行が降りてきて、ああそうか、1969年から始まるんだ、と。
――うまれたての星、というイメージはどこから。
大島 なんていうんでしょうね。とてつもなく熱量の大きなものがぐんぐん広がってばあんと破裂する、みたいなイメージがお話を聞きながら見えたんですよ。抽象的すぎて、よくわからないですよね。ごめんなさい。でも、本作を読み終えた人が、その星の上に立っているような気持ちになる小説が書きたい、書くんだ、って思ったんです。取材を通じて、編集者はもちろんのこと、マンガ家からカメラマン、製版所の方など、いろんな立場の人たちの話を聞いて、全部書かなくちゃという気持ちにもなっていたんですよ。その、宇宙のような広がりを、どうすれば物語にできるだろうかと考えていました。
