阿津川 辰海氏による、子どものためのミステリ小説。狙われたのは【壊れたおもちゃ】【出しっぱなしのこいのぼり】!? 不可解な事件の謎を解く!【書評】
更新日:2025/11/4

「子どもには本好きになってほしい」「それも、私に負けないくらいのミステリ好きになってほしい」「親子で同じ本を読んで感想を言い合いたい」――そんなことを願う読書好きなお父さん・お母さんは少なくないだろう。かくいう私もそのひとりだ。子どもを本好きにするために、今のうちからとびきり面白い本に触れさせたい。では、どんな本を選んだらいいだろうか。
そんな人にこそオススメしたいのが、主婦の友社が立ち上げた子どものためのミステリ小説レーベル「ミステリ図書室」。このレーベルからは、人気ミステリ作家たちによる、子どもから大人まで楽しめるミステリが刊行されている。特に私が気になったのが、『怪盗うみねこの事件簿』(阿津川辰海/主婦の友社)。だって、「怪盗」と聞くだけで、つい心が弾んでしまうのが、我らミステリオタクではないか。しかも作者は『紅蓮館の殺人』(講談社)や『透明人間は密室に潜む』(光文社)で知られる新進気鋭の本格ミステリ作家・阿津川 辰海氏。阿津川氏初の“子どものためのミステリ小説”は親子で読みたい、大人も子どもも楽しめる1冊だ。
主人公は、夏休みに伯母の住む海辺の町・うみねこ町に遊びに来た小学6年生のケン。いとこ・ヒサトは、この町に出没する伝説の怪盗・うみねこの調査をしているらしく、ケンもそれに加わることになった。ところがそんな矢先、ケンが手に入れた図書館のリサイクル本が怪盗うみねこによって盗まれてしまう。犯行現場はヒサトの家の居間。みんなが本から目を離した、ほんの一瞬の出来事だった。
夏休み。海辺の町で相次ぐ盗難事件。謎の怪盗の鮮やかな盗みの手口……。この本には、ミステリならではのワクワクとドキドキがギュッと詰まっている。あっと驚く展開の連続に、ミステリ好きはもちろん、ふだんあまり読書をしない子でも、夢中で読み進めてしまうことだろう。怪盗うみねこは謎に満ちている。たとえば、怪盗うみねこが盗むのは「使いかけの消しゴム」「ちぎれたミサンガ」「ペットボトルのキャップ」など、一見価値がないものばかり。「どうしてそんなものを?」と思いながら、ケンたちとともに調査に出かければ、そこに隠された意味がわかってくる。一見価値がないと思われるものでも、それは誰かにとって価値のあるもの。それを知った時、どうしてこんなにも胸が温かくなるのだろう。
この本は子ども向けながら、本格ミステリだ。だって、「どうやって盗まれた」というトリックも、「なぜ狙われた」という動機も、意外性が強く、とっても魅力的。そんな謎を追う、ケンとヒサトの関係もまた微笑ましい。お互いをライバル視し、どちらが先に謎を解き明かすかと張り合っていた彼らは次第に互いの推理力を認めるようになる。トリックにばかり興味をもつヒサトと、動機に興味を持つケン。そこにヒサトに恋心を抱くカオリも加えた3人の冒険から目が離せなくなる。
ああ、こんな素敵な冒険を私もしてみたい。大人の私だって思うのだから、子どもはなおさらだろう。子どもをミステリ好きにしたいならこの本。怪盗が巻き起こす不可解な事件を、親子で一緒に解き明かしてみませんか。
文=アサトーミナミ
