「におい・色・味がゆっくりと浮かび上がる」創造力が膨らむ良い佇まい【ブックデザイナーの装丁惚れ】
公開日:2025/12/3
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

とても良い魚。そこから立ちのぼるようなレイアウトのタイトルと著者名。帯を取ると、そこには食卓がパッと広がります。
手ざわりの良い白い紙にスミ一色での印刷が心地よく、そこから、“におい”“色”“味”などが、ゆっくりと浮かび上がるような感覚になりました。

本を開くと、優しく包み込んでくれるような幅広のカバー袖。ゆったりと読みやすい本文組。心地よいテンポで読み進めていると、見開きでドンと顔柄のお皿とオムレツ。時折現れるさまざまな大きな絵が、全体のアクセントにもなり、おもしろいリズムも生まれ、ページをめくることがより楽しくなります。

また、本文中の図解や表組みなども分かりやすく、絵も素朴でチャーミング。図解内の手や道具、食材も生き生きとしているように感じました。細かなところにも気配りが感じられる本は、その丁寧なつくりからも信頼ができますし、読んでいて、とても幸せな気持ちになります。

読者の創造力を膨らませつつ、著者の考えもしっかり伝わるように。その上で、良い佇まい。ブックデザインとはこうあるものだという、一つのお手本のような本だと思いました。
選・文:渋井史生
写真:首藤幹夫
しぶい・ふみお●アートディレクター/デザイナー。書籍や雑誌などを中心にグラフィックデザイン全般で活動。

装丁:有山達也+山本祐衣(アリヤマデザインストア)
<第7回に続く>