赤川次郎デビュー50周年記念復刊第2弾『離婚案内申し上げます』「今まで、ずっとこの日を待っていたのよ」蓄積した恨みを妻が夫に突きつける⁉【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/12/19

離婚案内申し上げます
離婚案内申し上げます赤川次郎/集英社)

 赤川次郎デビュー50周年を記念して過去の数々の名作が復刊・新装版シリーズとして刊行されている。その第2弾として、一風変わった男女の恋仲を軸としたミステリーやサスペンスを集めた短編集である『離婚案内申し上げます』(赤川次郎/集英社)が復刊された。
※『湖畔のテラス』を改題

『離婚案内申し上げます』――この表題作は、妻からの離婚通知が会社に届くところから始まる。主人公の伊沢はもうすぐ50歳。娘はつい先日嫁いだばかりだ。伊沢は何も知らされていないのに、周囲が先に離婚について知るという異常事態である。焦る伊沢に、妻・敏子は「今まで、ずっとこの日を待っていたのよ」と言い放ち、長年蓄積した恨みを綴ったノートを開く……。

 6つの物語に共通しているのは、読者を引き込む魅力的なシチュエーションと謎である。表題作であれば「貞淑な妻は、なぜ突然夫に黙って離婚を決めたのか?」という問いが冒頭から読者を捉える。他の作品も例に挙げると、「停電中の一晩を共にした男女の間で何が起こったのか?」、「恋心を抱く女性の父から離島の別荘に招待された理由は?」といった具合だ。いずれも短編であることを忘れるくらい物語の密度が濃く、意外なラストが待っている。

 また、1985年刊行の作品でありながら、まったく古さを感じさせないことに驚く。その理由は、登場する女性たちの芯が強く、生き生きしているからかもしれない。

 当時の夫婦仲や恋愛におけるスタンダードは現代よりも画一的で、一部は女性に対して我慢や苦難を強いる性質を持っていたように思う。実際、それを感じさせるシーンは本作にもたくさん登場する。しかし、それを不平等だとは感じさせない、自分らしく生きようとする女性が物語の中心に描かれているおかげで、爽快な展開や思いがけないどんでん返しが生まれる。そして登場する男性たちは、その奔放さに巻き込まれ、魅力に絡め取られていく。この男女のバランス感や関係性が、現代の感覚で読んでも面白く感じられる。

 扱っているジャンルも幅広い。ミステリー、サスペンス、ホラーなどに恋愛が掛け算され、細やかな伏線や人物描写は物語ごとに味わいを変えてある。そのため、読後感はクスリと笑えるものや哀しみをしみじみ味わうもの、スッキリとした爽快感があるものなど、さまざまだ。一冊の中でたくさんの物語に出会えるのは短編集の醍醐味であるが、これほど表情を変えてくれる本も珍しい。それでいてどの作品もテンポよく、独特のユーモアがちりばめられているため、多彩なのに一貫性を感じられる。

 テーマが男女の恋仲や愛憎なので、どんな読者でも登場人物の心理に共感しながら読みやすいはずだ。今まで赤川次郎氏の作品を読んだことがないという人にも、ぜひ手にとってほしい。40年前に書かれた作品であるということを忘れさせるくらい新鮮な感動と、数々の名著を世に送り出してきた赤川次郎氏の物語の緻密さや面白さを、存分に味わえる一冊だ。

文=宿木雪樹

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