読者が読む順番で登場人物の生死が決まる! 小説史上例を見ないギミックの魅力を語り尽くす『I』刊行記念【道尾秀介×影山優佳対談】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/1/24

■「□□□」のシーンに象徴される、人生の偶然性と多面性

――影山さん、『I』の中で印象的だった場面は?

影山 「□□□」※の描写から広がっていくシーンです(※編集部註:物語のキーアイテムなので伏字にしています)。『I』という作品を象徴するシーンであるとも感じました。今はSNSなどで、たとえば「幼児の遺体が見つかった」というニュースが出ると「母親はいったい何をやっていたんだ」「子どもを見捨てたのか」といった攻撃的な引用ポストが連なっていきますよね。そうしたポストを見て思うのは、人は誰かを貶めることによって得体の知れない恐怖から距離を取っているんだなと。「□□□」が出てくる場面を読みながら、もしかすると私も自分自身の得体の知れない恐怖から距離を取っていたのかもしれない、と感じました。自分の些細な行動が、誰かの心に一生の傷を負わせたかもしれない。そしてその傷は連鎖していくのかもしれないと。人間の脳の構造って、嫌なことやトラウマになりそうなことを削除できやすくなっているそうですね。「□□□」から広がっていく場面は、自分の脳が削除していたそれらの記憶を掘り起こしていったような感覚でした。

道尾 とんでもないことが起きるきっかけって、「□□□」から繋がる場面に描かれたようなことばかりだと思うんです。本物の悪意を以て悪を為すことって、滅多にない。逆に善意を以て善を為すこともあまりなくて。人を幸せにするのも不幸にするのも本当に偶然だったりしますよね。

影山 どちらから読むかによってまったく違う結末になる構造は、人間の多面性とも重なる気がしました。多面的に見ることは往々にプラスに働くとされていますが、この作品からは「あえて一面のみを見る」ことの良さも気づかされました。すべてを多面的に見なくてもいい、目の前にあるものだけを見る力を養っていくことも必要なのだなと。

――『N』は、順番を変えて再読するとそれまで見えてこなかったものが見えてくる仕掛けがありました。『I』の楽しみ方をお聞かせください。

道尾 逆の順で再読したときの「2度目の驚き」までタイムラグがあったほうが面白いかなと思います。そこで自分の選択がどれほど大きな結果をもたらすかを再び実感していただけるのではないかと。

影山 『N』は順番を変えて読むごとに解像度が上がる感覚を味わえる作品でしたが、『I』はいわば豪速球をみぞおちで受け止め、あばら骨が砕け散る感覚を味わえる作品でした。飲み下しやすいように咀嚼するより、大きなサイズのまま飲み込んで食道や胃の壁にあたる感覚を大切にしたい。そう望んでしまうような作品ですね。

道尾 物語に登場する人や風景などを、調味料は使わず、素材の味だけで楽しんでもらいたいといつも思っているんです。たとえば「ここで濡れ場があれば読者は飽きない」といったセオリーはたくさんあるけど、僕はそういうものをぜんぶ無視して小説を書いてきたので、そういう風に言っていただけると、とても嬉しいですね。

文=河村道子
写真=干川 修
ヘアメイク(影山さん)=遠山祐紀(SHE)
スタイリング(影山さん)=合田凪沙(ALCATROCK)

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