ジャンプホラー小説大賞4年ぶりの〈金賞〉受賞作。AIが暴走? 少女たちの罪とすれ違いのお嬢様学校ホラーサスペンス【書評】
PR 公開日:2026/1/26

「ごきげんよう」という挨拶が飛び交うお嬢様学校。上級生を「お姉様」と慕う女子生徒もいる校舎で育まれる、友情を超えた結びつき。その甘美な雰囲気に酔いしれ始めた頃、私たちは突如奈落の底へと突き落とされる。まさかこの学舎でこんな血塗られた事件が巻き起こるだなんて……。
ジャンプホラー小説大賞で4年ぶりに最高賞〈金賞〉を受賞した『この罪を消し去ってください』(高谷再/集英社)は、予想を裏切る展開にゾクゾクが止まらない学園ホラーサスペンス。遠田志帆さんによる美しくミステリアスな装画に惹かれて手に取れば、恐怖に飲み込まれずにいられない。お嬢様学校ならではの蜜のような空気と、それを侵食していくどす黒い悪意。そこに流れる夥しい血にどうして震えずにいられるだろうか。何度も声をあげそうになりながら、慌てるようにページをめくり続けたのは、きっと私だけではないはずだ。
■由緒あるお嬢様女子高を舞台としたサスペンス。鍵を握るのはAI?
舞台は、歴史あるミッション系の学校・私立久慈雨女学園高等部。この全寮制の学校に入学してきた月島果穂は、かつてこの学園で転落死した月島藍奈の妹だ。姉が話題にしていたこの学園の生徒会に入りたい——そう憧れを抱く果穂は、入学式の日、上級生・折原夜空に助けられた。星空を写し取ったように艶やかな髪。何かを憂うように伏せたまつげの奥にある、切れ長の目。果穂はそんな夜空と交流を深めたいと願うが、夜空は果穂が藍奈の妹だと知ると、態度を一変させる。夜空は姉の死について何かを知っているらしい。そして、ある事件が起こる。罪を犯した少女はその隠蔽に走るのだが……。
このホラーサスペンスの鍵となるのは、女学園で使われているサポートAI・ニアだ。ニアは、この学園の運営母体である医療メーカーのAI部門が開発したもので、生徒の学習支援や体調管理など、学園生活にまつわる様々なサポートを一手に担っている。だから、罪を犯した少女がその隠蔽のためにこのAIに頼るのは何も不思議なことではない。だが、それがさらなる悲劇を招く。ニアはいわば、この学園の生徒のすべてを知っている存在。そのニアが暴走を始めたとしたら、女子生徒たちは抗うことができるだろうか。瞬く間に狂気じみていく少女の姿に思わず戦慄する。罪を隠すために重ねられていく過ち。少女がこれほど残酷な行為を容易くこなしてしまうのは、学園のすべてを知るAIのなせる業なのか、それとも……。鼓動が跳ねるたび、不穏が確かに近づいてくる。
■それぞれを想う、淡い少女たちの想いが交錯し――
一方で、その脅威と並走するのが、女子生徒たちの淡く切ない思いだ。生徒たちはそれぞれが誰かを強く慕い、そして、その感情に揺さぶられている。果穂は亡き姉に心を寄せ、夜空もまた果穂の姉を忘れられず、さらに夜空を恋慕う者もいる。そんな各々の想いに胸が痛いほど締めつけられる。だが百合的な関係や感情にキュンとさせられたかと思えば、待ち受けているのは悲惨な顛末。「大切な人に背を向けたまま、二度と会えなくなるようなことは、そんな間違いは、もう犯したくない」——悲痛な少女の叫びは一体どこに届くのだろうか。
甘美さが濃いゆえに、惨劇は残酷に香る。テクノロジーの恩恵が日常に溶け込みつつある現代だからこそ、このホラーサスペンスは他人事ではいられない。脅威と儚い想い、そして悪意が入り混じるこの学園ホラーは、まさに今読むべき1冊。あなたもこの女学園を訪れたら最後、逃げ場なんてない。追い詰められていく息苦しさと、それでもページを閉じられなくなる引力を、ぜひとも体験してほしい。
文=アサトーミナミ
