第44回「物語の世界へ誘ってくれる装丁」本の軽さ・重さが喜びにつながる【ブックデザイナーの装丁惚れ】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/2/2

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年2月号からの転載です。

 本書はノルウェー出身の作家ヨン・フォッセによる、ある漁師の物語。一見すると重厚感のある表1だが、持ってみると意外に軽く、束幅も15ミリほど。薄めの上製本好きには堪らない佇まいに一目惚れして、勢いでぽんと装丁買いしてしまったのだった。

 タイトルより上に大きく配置された欧文書体がひときわ目を惹いて、とにかく美しい。緊張感のある細い箔押しだが、書体が持つ飄々とした雰囲気が、装画の醸し出す重さをほんのり和らげている。よく見ると、文字の中に舫綱や波、釣針のようなモチーフが見え隠れしているのも可愛い。初見でもなんとなく「海にまつわる物語かな」と予感させて、まさに物語の世界へ誘ってくれる装丁だと思う。

 ところで、本は紙の束である以上、物理的な重さを伴う。

 この重さが結構重要で、本を手にする時の感情に、思ったより大きな影響を及ぼすように思う。軽やかな装丁でずっしり重いと「おお」と驚くし、重厚感ある装丁で存外軽いと別の「おお」という声が出る。最初に抱いた印象通りでも嬉しいし、予想外だった時には意外な一面が更に嬉しい。ちなみに今回は後者の方。本を手に取る時の喜びがこんなところにもあると思う。

選・文:鈴木久美 
写真:首藤幹夫

すずき・くみ●東京造形大学卒業後、角川書店装丁室を経て2014年に独立。手掛けた装丁に『52ヘルツのクジラたち』『汝、星のごとく』、『谷川俊太郎詩集』など。

『朝と夕』
『朝と夕』(ヨン・フォッセ:著 伊達朱実:訳/国書刊行会)2420円(税込)

装丁:アルビレオ

<第8回に続く>

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