平野レミ、父が夫・和田誠に結婚時に約束させたことは? 親日家だったアメリカ人祖父の話も。“最初で最後”と語る自伝【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2026/1/24

平野レミ大百花
平野レミ大百花(平野レミ / 中央公論新社)

 “シュフ”のために考えられたおいしく実用的な料理で知られる平野レミさん。食育インストラクターである義嫁・和田明日香さんとの共演などでも注目を浴びています。このほど刊行された『平野レミ大百花』(中央公論新社)は、本人が「最初で最後」と語る初の自伝。幼い頃の両親との思い出から最近のプライベートまで、あるがままの素顔が綴られています。

父が背中を押してくれた歌の仕事が人生の糧に

 レミさんが、かつてシャンソン歌手として活動していたことは、意外と知られていないかもしれません。詩人で仏文学者の父親・平野威馬雄(いまお)さんが持っていたレコードのシャンソンを、小さな頃から大声でまねして歌っていたというレミさん。やがて父の知人の紹介で文化学院に入学し、歌手としてデビューします。当時、名物スポットだった銀座の日航ミュージックサロンなどで歌い、ピンヒールのまま夜の銀座を走り回っていたとか。

 レミさんの歌を誰よりも応援していた威馬雄さんは、レミさんが結婚する時にも、夫の和田誠さんに「レミから歌を取り上げないように」と伝えていたそうです。その言葉をずっと覚えていた和田さんは、のちに、レミさんの『私の旅』というアルバムをプロデュースします。レシピが含まれた歌も収録された、歌と料理が好きなレミさんらしいアルバムでした。

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「生涯かなわなかった」母・清子さんの料理

 料理好きは、母親の清子さん譲り。清子さんは、グルメだった威馬雄さんに連れられ、帝国ホテルでシェフにステーキの焼き方を教わったこともあったそうです。家族みんなの分をフライパンにギューギューと詰めて焼いてしまうレミさんとは違い、清子さんは一枚ずつ丁寧に焼き上げるスタイル。「母のステーキには、生涯かなわなかった」と振り返っています。

 料理好きが高じて料理愛好家になったのは、夫・和田さんの知人からすすめられ、料理雑誌にエッセイを書いたのがきっかけ。和田さんは、外食に出かけても「レミのご飯のほうがおいしい」というほどレミさんの料理が好きだったそうですが、仕事場は自宅とは別の場所にもうけ、ドアから一歩出るとびしっと“仕事の人”になる人だったといいます。そんな夫の姿に「私が立ち入れない自分の世界を別に持っている」と感じたレミさんは、「私も何かを見つけなければ」と感じていたそう。

アメリカ人で親日家だった祖父からの確かなつながり

 本書には、文献や両親が書き残した文章から引用された祖父母の話も綴られており、その経歴に驚く人も多いかもしれません。それによると、祖父のヘンリー・パイク・ブイ氏は、アメリカのカリフォルニア州で弁護士の仕事をしたのち、妻を亡くして傷心のまま来日。日本の書画などの美術に魅せられ、日本画の作品や技法を紹介した本を出版しました。この本は、現代でも版を重ねるほどのロングセラーだといいます。

 のちに、ブイ氏はレミさんの祖母にあたる駒さんと出会い、威馬雄さんが誕生。ブイ氏は威馬雄さんが生まれてすぐにアメリカに帰国したため、駒さんは茶道や琴などのお師匠をしながら、ひとりで威馬雄さんを育てたそうです。ブイ氏の死去のニュースは、有名な親日家として新聞に大きく掲載され、翌年行われた追悼式の発起人には、渋沢栄一や、のちの松坂屋を作った伊藤守松氏ら、著名な人たちが名を連ねていたとか。

 生前、資産家としてサンマテオの豪邸に暮らしていたというブイ氏。レミさんがカリフォルニアに出かけた時、丘の上にある大きな建物になぜか惹かれ行ってみたらそれが祖父の墓所だった…というエピソードにも驚かされます。祖父の縁がつながり、レミさんは、アメリカの名門スタンフォード大学で講演をしたこともあるそうです。

大切な家族に贈るラブレターのような1冊

 レミさんが自身の人生を振り返る時、そこには必ず家族がいます。好きで続けているという歌や料理を通じて語られる、家族との思い出。それらは家族から贈られたプレゼントのようであり、レミさんがそれを語る言葉は、今は亡き大切な人たちに伝えるラブレターのよう。読んでいるほうまで愛おしくなるエピソードばかりです。

 最近はお休みの日の庭の芝刈りが習慣で、一仕事終え、庭を眺めながらお茶を飲む時間に幸せを感じるというレミさん。何もしない時間に、ふと家族のことを思い出すこともあるのではないでしょうか。苦楽ありながら今でも現役で、家族との思い出が詰まった人生に、憧れを抱かずにはいられませんでした。

 テレビで見るレミさんはいつも自由奔放で、時に豪快。けれども、相手を思う優しさを感じます。好きなことを応援してくれた両親の存在が、その優しさにつながっているのかもしれません。私たちに元気を与えてくれる存在として、これからも変わらず、その姿を見せてくれることを願っています。

文=吉田あき

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