第1回「薩摩ポッター」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない①
公開日:2024/1/12

大学受験を控えた高校三年生の秋。
喜びも悲しみも感じない機械のようになってしまった私に感情を授けてくれたのは『ハリー・ポッター』だった。
この時期に趣味や熱狂できるなにかを見つけてしまうことは大変危険ではあったが、サハラ砂漠のように枯れた私の心は潤った。モイスチャーだ。
マークシート式の模試でひとつずれたまま記入をしてしまう度に、何度ホグワーツ魔法魔術学校に入学したいと願ったことか。適度な現実逃避を取り入れつつ、あれだけがむしゃらに何かに取り組むことができた日々が恋しい。
いつの間にかお酒が飲める大人になっていた。今の体では、ささくれた木の椅子とガタガタ揺れる木の机で長時間作業するなんて考えられない。成人間近、ユニバではじめてバタービールを飲む夢を叶えられた時のことは忘れられない。
全身を震わす衝撃的な味だった。プリンのカラメルの部分を濃縮したような味にほんのり後からジンジャー。微炭酸で炭酸の抜けたコーラよりも飲むのがきつかった覚えがある。
これが文化の違い、価値観の違いなのかと唖然とした。わかってあげたいけどあげられない。ホグワーツに行きたいと願っていたけれど。人間界のビールがあまりにも旨いので、マグル(人間)もなかなか悪くないなと思うこの頃。
一応ハリー・ポッターがどんな話なのか説明しておくと、ロン・ウィーズリーという純血魔法使いの少年が、幼い頃に両親を亡くし人間界からやってきた孤独な少年ハリーポッターと出会い親友になる。そこで彼は、非常に賢く美しい人間界出身のハーマイオニー・グレンジャーという運命の相手を見つけ、名前を言ってはいけないあの人こと最強の闇の魔法使いヴォルデモートと戦う物語。
ロンのちょっと自信のないところや、場を和やかにする雰囲気、非常に家族思いでケーキとアイスクリームを同時に食べるところも好き。
さらに、ロンのキスシーンのメイキングが本当に良すぎる。実際に10年も一緒に子供の頃から過ごしてきた友達と初めてキスすることになって、恥ずかしさともどかしさのあまり何テイクも失敗しちゃって照れ笑いしているのを見たら悶絶するって。
ロン推しフィルターが少々かかりすぎていたかもしれないが、ざっくり言うとそんな話だ。全8作品もあって、見始めた頃には全シリーズ揃っており、一気見したのだが、見終わると完全なる喪失感に苛まれた。この先の物語を追えないことが、自分があちら側の世界に行けないことが、本当に辛くて夜しか眠れなかった。
しかし、最近では舞台やゲーム化、さらには「としまえん」跡地にハリー・ポッターの施設まで誕生している。いつまでもファンでいさせてくれる作品は、なかなかないので感謝感激雨霰だ。
もちろん、そのハリポタ施設がオープンする前からチケットは購入済み。ゲーム『ホグワーツレガシー』も許されざる呪文アバダケダブラを駆使しながら闇の魔術師としてクリアし、準備万全!…のはずだった。
