「五輪を喰った兄」と「長銀を潰した弟」。バブルに翻ろうされた“高橋兄弟”は時代が求めたアンチヒーロー?【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/1/9

バブル兄弟
バブル兄弟 ‶五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則』(西﨑伸彦/文藝春秋)

 日本が栄華をきわめたバブル時代、その「狂乱」ともいうべき大きな渦に翻ろうされた兄弟がいた。

 書籍『バブル兄弟 ‶五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則』(西﨑伸彦/文藝春秋)は、バブル期から令和にかけて栄光と挫折を味わった高橋兄弟の人生を追ったノンフィクションだ。その足跡からは、日本経済の栄枯盛衰もみえてくる。

 兄の治之氏は、記憶に新しい「2020年東京オリンピック・パラリンピック」(以下、東京五輪)のスポンサー契約をめぐる汚職事件の渦中にいた人物である。

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 スポーツマーケティング界の重鎮として知られる治之氏は、かつて、電通社員として数々のスポーツイベントビジネスを成功に収めた。サッカーの王様・ペレの引退試合となった「ペレ・サヨナラゲーム・イン・ジャパン」、プロサッカークラブの世界選手権大会「トヨタカップ」、プロボクシング世界ヘビー級タイトルマッチ「マイク・タイソン対トニー・タップス戦」と、功績は様々だ。

 先の東京五輪では、組織委員会の理事として日本への招致にも貢献した。しかし、のちに「カネと利権に塗れた大会」とまで、東京五輪が揶揄されるきっかけとなった汚職事件への関与が疑われる。現在も受託収賄罪での公判は続いており、判決は出ていない。しかし、世間から向けられた疑惑の目は、まぶしいほどの治之氏のキャリアに暗い影を落とした。

 かたや、弟の治則氏はいわば「バブルの申し子」だった。わずか数年間で不動産、海運、金融など100社近い参加企業を持つ一大コングロマリット(注:複合企業)を築き、資産は1兆円を超えて「環太平洋のリゾート王」とまで称された。

 父の会社「イ、アイ、イ」の社長へと就任して以降は、ゴルフ場の開発とゴルフ会員権の販売ビジネスに着手。1985年のプラザ合意で「円高の時代」へ突入すると、サイパン、オーストラリア、香港、アメリカと、世界をまたにかけたリゾート開発や高級な不動産の買収に次ぐ買収で、富を築いていった。

 しかし、勢いはいつまでも続かない。バブル経済が崩壊し、「イ、アイ、イ」グループの経営は一気に傾いた。メインバンクとして巨額の融資をしてきた「長銀(日本長期信用銀行)」は、手のひらを返したように「イ、アイ、イ」グループから資金の回収に走るが、バブルに踊った銀行の闇は深く、結局、銀行自身が破綻に追い込まれる。治則はその責任を一身に負わされ、「長銀を潰した男」とまで言われることになる。

 事実は小説よりも奇なりだ。本書の終盤、著者は高橋兄弟について「狂乱のバブルに踊り、栄光と挫折の物語を生きた二人は、時代が求めた最後のアンチヒーローだった」と述べる。実際にあった人生の浮き沈みから、得られる教訓も多い。

文=カネコシュウヘイ