ガンで子宮を全摘出、離婚後に求めたのは「性のぬくもり」だった。目の前をグルグル回る男たちに、体をゆだねるゲスな夜
公開日:2016/11/21

今年はやたらと“ゲス”という言葉を耳にする。ほぼ死語に近かったこの言葉、年初の芸能スキャンダル絡みで脚光を浴びてしまったようだ。“ゲス(下種、下衆、下司)”の意味は、下劣であること、心根が卑しく品位を欠いていること、低劣であること。また、そのようなさまや人のこと。下司の極み、下司野郎、ゲスい奴…その音の響きからもお上品ではない様が伝わってくるようだ。
『ゲスママ』(神田つばき/コアマガジン)の著者はエロのプロフェッショナルである。「緊縛美研究会」モデル参加後、AV女優として活動、その後自身でSMやフェティシズム映像を作るAV制作メーカーを設立した。本書は、著者の強すぎる性欲という“業”にフォーカスした一代記である。生い立ちから性の目覚め、結婚、出産、子宮摘出手術、離婚、SM、暴力…つまづ きながらも歩き続けてきた道が、著者の細かい心の揺れとともに生々しく語られる。
「女系家族団」のメンバー
著者の人生に大きな影響を与えたのは家庭環境だ。父親不在、美人で働き者の母と弁の立つ明治の女である祖母は、“ふたりでひとり”の完璧な女性だった。ふたりとも男運が悪く、異常なまでの性愛への嫌悪とタブー視ぶり。そんな祖母と母の思いに逆行するように、著者は幼いころからある思いにかられる。
“私は強烈に憧れていたのである。男子に捕らえられて、どこかに拘禁されるということに。”
夜な夜な、鎖で縛り上げられて古井戸に落とされるという妄想で下腹部の奥を熱くする…そんな少女だったのだ。
性の偏向
クラスに友達がいなかった幼い頃の著者にとって、唯一心を許せたのは隣のアパートの男の子、まあちゃん。少女時代の著者はあるとき、まあちゃんのひとことで稲妻をあびたような衝撃を受ける。
「つばきちゃんを、縛ってもいい?」
まあちゃんの手には、縄跳びが。しかし、“つばきちゃん”の答えは、
「いや」
まあちゃんとの性の偏向の共通を感じながらも、いけないことだとわかっていたからそう答えるしかなかった。このときにまあちゃんを拒絶してしまったことは、著者の人生に今もなお大きな影を落とし続けているという。
男たちのメリーゴーラウンド
出会い系の男たちは、ぐるぐる回る遊園地のメリーゴーラウンドの馬。好きな時に乗って、嫌になれば降りて、また次の馬に乗る…そんなことの繰り返し。本当は大事にしたいものに背を向け、かけがえのないものを壊す。望まない別れを生む原因は、卑屈ゆえに本当の思いを伝えられないせいだと著者は悟る。それなのに、その傷を癒すためにまた、新しい馬に乗る…そんな無限ループに幕を下ろしたのは、著者が自らにほどこした、想像を絶する行為だった。
“生きているうちしか命は削れないのだ。命を削ることが生きているということだ。”
そう、著者はいう。ヒリヒリするような生きざまは果たして、“ゲス”なのか。それとも?
文=銀 璃子