2週間に1度起こっている“介護殺人” 想像を絶する介護の実情、愛する家族を殺めてしまった苦悩に迫る
公開日:2017/11/9

これほど衝撃的で、物凄い熱量をもって読者の心に訴えかけてくるルポを読んだのは、いつ振りだろうか。『「母親に、死んで欲しい」介護殺人・当事者たちの告白』(NHKスペシャル取材班/新潮社)という一冊をご紹介させていただきたい。本書は2016年7月3日に放送され反響を呼び、複数の国際映像賞を受賞した番組、『NHKスペシャル「私は家族を殺した~“介護殺人”当事者たちの告白~」』をベースに書き下ろされたルポルタージュである。
■日本では、2週間に1度“介護殺人”が起こっている
介護殺人は誰の身に降りかかってもおかしくはない、決して他人事では片付けられない現実だ。そして、介護者の抱える問題の解決は一刻を争う切実な状況だ。読後、とても強くそのことを実感した。
「介護殺人は許されない。だから、一線を越える人と、越えない人、その境界を探ろうと話を聞いて来た。聞けば聞くほど、その境界は分からなくなる」本プロジェクトの編集の最終段階で、介護殺人の当事者(元容疑者・受刑者・元受刑者・担当弁護士)と相対してきたディレクターはこう言ったという。プロジェクトの取材班が見せつけられた現実は、解決策を見いだせないほど過酷で、光の見えない介護の世界だった。取材者が立ち尽くしてしまうほどの厳しい介護のリアルが、本書ではそのままの形で綴られている。
■「私は母のことを、母の皮をかぶった化け物だと思っていました」
認知症になった母親の介護を始めて2か月後、首を絞めて母を殺害した50代受刑者の発した言葉だ。現在服役中のこの男性は、懲役8年の実刑判決を受けた。裁判では介護疲れが原因とは認められず、判決によると動機は“身勝手なもの”とされている。認知症になり、日本語ではない何かを叫びながら暴れる母親。それでも彼は一生懸命に介護をしようと自分なりに工夫を重ねていた。しかしいくら努力を重ねても母親は暴れ続ける。以下、刑務所内でのインタビュー(面会)の様子。
犯行を決意したのは、事件数日前の晩だった。トイレから出てきた母親が、大便まみれになっていた。パジャマの上下にも、手にも、「どうやったらそんなにつくのか」というぐらい、大量に大便をつけていた。
「一番つらくて一番かわいそうなのは、母本人なんだなと思いました。私は母を楽にしてやれるのは俺しかいないと決めて、その2、3日後に犯行に至ってしまいました。それが全てです。」(本書30・31頁)
■普通の幸せな家族を襲う介護問題
本書では9件の介護殺人の事例が取り上げられている。それらを読んで言えることは、どれも「普通の温かい家庭」で起こった悲劇だということだ。そして事件を起こした介護者たちは家族想いの真面目な人ばかりで、一般的な殺人者のイメージとは大きくかけ離れている。そんな人間が人を、ましてや愛する家族を殺めてしまうという惨事はどうして起こるのか。そこには想像を絶するような介護の苦悩があった。そんなどうしようもなく複雑な背景に直面したからこそ取材班は、取材相手を“殺人者”としてではなく、あくまで介護によって追い詰められた一人の人間、つまり“当事者”として描いている。
「家族は助け合って介護をするべきだ」という風潮によって介護者が追い詰められた事例も多数挙がった。介護は家族の責任だと、社会が圧力をかけているのではないか。介護殺人は当事者の「自己責任」だけでは決して片付けることのできない問題だということを、本書に痛感させられた。私たちは本当に、このまま見て見ぬふりをし続けて良いのだろうか。介護を取り巻く状況は想像以上に切迫している。
文=K(稲)
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