3か月後の自分は、今食べているものでできている! 食べること、作ることにとことん向き合った、丁寧な暮らしの提案書
公開日:2017/12/8

料理をする時、何を考えながら、何を優先しながら作るかは、人それぞれ。でも、料理が好きでも嫌いでも、人は食べなければ生きていけないし、食べたものでできている。簡単レシピ、お手軽レシピが気軽に見られるようになり、大抵の人はそういったものに頼ってしまいがちだ。それでもファストフードやコンビニ食よりは健康的だし、筆者も簡単料理にはお世話になっている。続けやすいというメリットもあるし、それを悪いとは思わない。
でも、体が疲れて弱っている時に本当に体を癒してくれるのは、やっぱり丁寧な料理だったりする。いざという時、それを作れるか否かの差は大きい。『いのちと味覚 「さ、めしあがれ」「イタダキマス」』(辰巳芳子/NHK出版)は、簡単であることに頼りすぎない、丁寧な食生活を送ることの意味、大切さを分かりやすく説いている本だ。
著者である辰巳芳子さんは、「生きていきやすく食べる」心得として、本書の中で「畏れ」を持つこと、「感応力」を磨くこと、「直観力」を養うこと、「いざのとき」を迎え撃つこと、「優しさ」を育てること、の5つを中心に語っている。しかし辰巳さん、実は元々料理は好きではなかったそう。料理の道に進み始めた当初は、“積んでは崩す”の繰り返しである料理にやりきれなさを感じてしまっていた、と書かれている。
辰巳さんといえば、丁寧に出汁をとったスープの本をたくさん出している方で、てっきり元々料理が大好きなのだと思っていた。でも彼女の今の料理スタイルは、長い闘病生活と、料理好きだった母親やまわりの人たちとの関わり、自身の葛藤の中で生まれたものだった、と書かれている。葛藤の結果行き着いた、「分子レベルで食べたものとからだが入れ替わる」「三か月もすれば、食べたものと入れ替わっている」という事実が、辰巳さんに深い安堵をもたらしてくれたのだそうだ。
普段何気なく食べていると、ついついエネルギーを補給しているような気持ちで食べてしまうが、実はそんなことではない。口にしたものが体の一部となり、約3か月かけて徐々に今ある体と入れ替わっていくのだ。それだけ口にするものは重要で、料理というのは価値あるもの。それを考えると、やっぱり少しでもいいものを作り、美味しく取り入れたい。では実際、何をどうしていくのがいいのか。
辰巳さんは、「食べるということは、他者のいのちをいただくこと」であり、「畏れるべきこと」だと語っている。風土や食材を畏れ、ちゃんと向き合うことで、大切な「感応力」「直観力」が磨かれていく。それが「いざのとき」を迎え撃つ準備に繋がり、「優しさ」にも繋がっていくのだそう。それは一朝一夕で磨かれるものではなく、日々繰り返していく中で少しずつ磨かれていくもの。そしてこの感覚は、風土や食材をきちんと見ていなければ得られない。
とはいえ、忙しい中で料理だけしているわけにはいかないし、金銭的な問題だってある。でもだからこそ、本書を読んで自分にできることは何かを考え、感応力を身につけて模索していく必要があるのだ。
この『いのちと味覚 「さ、めしあがれ」「イタダキマス」』には、辰巳さんが長年かけて改良を重ねた出汁の取り方やスープの作り方などの具体的な方法も紹介されている。まずは、これで基本を学びながら感応力を鍛えるのがいいだろう。そして自分は今何をどう食べるのがいいのか、目の前にある食材はどう調理するのがいいのかが感覚で分かるようになれば、自らの力で「生きていきやすく食べる」ことができるようになる。何かと慌ただしい世の中だからこそ、これは生きるのに必要な力なのだ。
文=月乃雫
レビューカテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2025年6月号 伊坂幸太郎/東村アキコ
特集1作家生活25周年 伊坂幸太郎 次世代に受け継がれる物語/特集2 東村アキコのはじまりを マンガと映像でうつし出す 『かくかくしかじか』 他...
2025年5月7日発売 価格 880円
人気記事
-
1
-
2
-
3
二宮和也「令和の赤ちゃんたちは良い環境で育っているんだな」。約20年ぶりに声の出演を務めて感じたこと【『シナぷしゅ THE MOVIE』インタビュー前編】
-
4
ヨシタケシンスケ 自己肯定感の低さが決定的になった瞬間は。自分を好きじゃなくても生きるヒントをもらえる、イラスト&インタビュー集【書評】
-
5
お風呂嫌いのお子さんに悩むパパ・ママ必読!? 柴田ケイコの大人気シリーズ「パンダのおさじ」新作が、親子のお風呂を楽しい時間に
人気記事をもっとみる
新着記事
今日のオススメ
-
レビュー
連続ドラマも話題の『夫よ、死んでくれないか』がコミカライズ! 不倫疑惑の夫が失踪、調査で「知らない一面」が明らかに……【書評】
PR -
レビュー
高校生探偵、やる気ゼロでも難解事件をサックリ解決!?「面倒くさい」が口癖な彼の切ない過去【書評】
-
レビュー
ロマンチックな恋愛小説かと思いきや……登場人物は全員クズ!期待を裏切る、金子玲介のブラック短編ラブストーリー『流星と吐き気』【書評】
PR -
レビュー
人見知りの青年と社交的な吸血鬼。凸凹コンビが、ヴィクトリア時代のイギリスを舞台に怪奇事件に挑む!『テーラーの憂鬱』【書評】
PR -
レビュー
「どちらかが死ななければならない」生き残るのは兄か、弟か――。北方謙三、不朽の名作「日向景一郎シリーズ」最終巻『寂滅の剣』【書評】
PR
電子書店コミック売上ランキング
-
Amazonコミック売上トップ3
更新:2025/5/20 15:30-
1
ブルーピリオド(17) (アフタヌーンコミックス)
-
2
魔導具師ダリヤはうつむかない ~Dahliya Wilts No More~ 8巻 魔導具師ダリヤはうつむかない~Dahliya Wilts No More~ (ブレイドコミックス)
-
3
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~(20) (サンデーGXコミックス)
-
-
楽天Koboコミック売上トップ3
更新:2025/5/20 15:00 楽天ランキングの続きはこちら