パラリンピック開幕前に読みたい! 自分ではなく他人のために、勝利を目指す…“伴走者”の熱い戦い
公開日:2018/2/27

平昌冬季パラリンピックが3月9日から開幕する。メダルをかけて懸命に競技する選手を見ると、障がい者スポーツに関心を持っていなくても、きっと熱くなれるはずだ。
『伴走者』(浅生鴨/講談社)は、パラリンピック出場をかけて必死に頑張る競技者に注目した小説だ。しかし競技者といっても選手ではない。視覚障害のある選手が安心して全力を出せるように、選手の目の代わりとなって周囲の状況や方向を伝えたり、ペース配分やタイム管理をしたり、ともに競技に出場して選手のガイドを務める「伴走者」を主人公にすえた新しいスポーツ小説なのだ。
本書には「夏・マラソン編」と「冬・スキー編」の2つのストーリーが収められている。マラソン編の主人公は、淡島祐一。正確無比な走りを得意としており、マラソン界でもトップランナーだ。しかし「トップ」になることはなかった。勝つために大きなものが欠けているのだが、それが何かは分かりそうで分からない。
そんなとき、知り合いから視覚障害者ランナーの内田健二を紹介される。会った瞬間からふてぶてしく傲慢な態度を取る内田に最悪な印象を持った淡島。はじめは内田の伴走者を断るつもりだったが、視覚障害マラソンのトップ選手の走りに圧倒される。さらに内田の勝利への貪欲な姿勢に心ひかれ、コーチとしての能力を高く評価された淡島は伴走者を引き受けることに。そしてパラリンピックの出場をかけ、南国のマラソン大会で金メダルを目指す2人だったが、次々に試練が襲いかかり……。
本作品を読んでいると、スポーツに障害なんて関係ないと感じる。選手の誰もが「一番」に魅力を感じ、他のことは何も見えなくなるほど夢中になる。勝利というたった2文字を手にするため、あらゆる努力を払い、自分を追い込み、挫折と葛藤を乗り越え、ゴールに向かって走っていく。金メダルを目指す内田の発言は、憎まれ口にまみれているが、信念を貫いていて憧れる。誰にも負けない執念を持っている選手こそ、きっと応援する人を熱くさせるのだ。
一方、「冬・スキー編」の主人公は立川涼介。中堅の乳業メーカーで営業として働いているが、学生の頃は日本最速を誇るスキーヤーだった。営業の世界でもトップを守り続ける涼介だったが、会社の方針で社会貢献という名の広報活動をさせられることに。視覚障害クラスのアルペンスキーのガイドレーサーをやることになったのだ。そして一緒に滑る相手となったのが、鈴木晴。天真爛漫で才能にあふれる女子高生だ。
こちらのストーリーは、晴がめちゃめちゃ可愛らしい。ワガママだけど愛嬌があって、涼介に好意を寄せる発言にニヤニヤする。やっぱりスポーツものに恋愛要素はぴったりだ。それだけに、涼介が抱えるコンプレックスも目を引く。1位にこだわり続ける涼介は、そばにいる晴を知らず知らず傷つけてしまうのだ。
コンプレックスを抱えずに生きている人はいない。それを乗り越えようと必死に努力する人、はなから諦める人。様々な向き合い方があるが、なにより大切なのは、まずはコンプレックスを抱えている自分を見つめ、それを受け入れることではないか。
晴は自分のことが見えなくなっている涼介にそれを気づかせた。涼介は伴走者であることを通して大切なことに気づくことができた。スポーツは自分のために頑張るものだが、自分ひとりでできるものではない。本作品は、スポーツは人間を成長させる素晴しい機会だということも教えてくれる。
平昌パラリンピックまでもうすぐだ。きっと本作品のような人間ドラマが、今まさに選手と伴走者の間で起きているのかもしれない。その人間ドラマがどのような結果をもたらすのか、彼らは私たちにどんな姿を見せてくれるのか、開幕が待ち遠しい。
文=いのうえゆきひろ