「コンビニたそがれ堂」シリーズ第7弾!『百貨の魔法』番外編も収録! 優しい想いはめぐり、いつか誰かのもとへ届く
公開日:2018/3/25

それならば、わたしはいままでひとりではなかったし、これからもひとりではないのだわ
――なんて美しい一文だろうと読み終えたときしみじみ思った。『コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙』(村山早紀/ポプラ社)、表題作「小鳥の手紙」のラストである。
風早駅前商店街の路地のはずれ、たそがれ時から夜明けまでの間だけひらく、不思議なコンビニ。優しい狐の神様と、化け猫の看板娘が働くその店には、誰もが辿りつけるわけではないけれど、ひとたび店に入れば、望んでいたものはなんでも手に入る。しかもすべて、お代は五円。強く切実な想いに導かれてたそがれ堂にさまよいこむ人々を描いた連作短編シリーズの、本作7冊目だ。
「雪柳の咲くころに」は、いつも誰かのために動いてしまう、心優しき少年が主人公。夢を諦められない母親が、幼い彼を残して家を出ようとしたときも、「いかないで」の一言ではなく、母の背中を押す言葉を口にした。そんな彼の優しさがどんなに尊いか知ってくれている少女には、彼のほかに好きな人がいる。どんなに切ない思いをしても、優しさだけは貫ける自分でありたいと、耳にした「助けて」という声に導かれて壺を拾えば、魔神に逆恨みされて殺されそうになってしまう。ふんだりけったりである。けれどそんな彼の前に、たそがれ堂の看板娘・ねここが現れる。冷たく凍える彼にねここは、ある人からのぬくもりを届けに来てくれたのだ。
優しさは、望んだようにわかりやすくは報われないかもしれない。彼の優しさは、目には見えない巡りを経て、ちゃんと彼のもとへ戻ってくる。その循環に彼が気づいた瞬間、思わずほろりとさせられる。
「小鳥の手紙」の一文に胸を打たれたのは、もちろん、主人公の千花をめぐる想いの循環が沁みたからだが、同時に、少年にも思いをはせてじんとさせられたからだ。優しさは、想いは、めぐっていく。気づかないところで人と人とをつなぎあわせ、幸せの種を蒔いていく。理不尽なことも多い世の中だとわかっているからこそ、そのさりげないぬくもりに、救われたような気持ちになる。自分ももしかしたら、気づかぬうちに巡りの一部になれているかもしれないな、と。
著者・村山さんのお名前も、「コンビニたそがれ堂」も、もちろん知ってはいたし気になってもいたけれど、シリーズものの常として、気づけば何冊も刊行されていて「最初からちゃんと読みたい」派としては読み逃すほかなくなるという悲しみがある。けれどこのシリーズに関しては、何冊目から読んでも本当に大丈夫、と知人からお墨付きをもらい本作から読んでみたのだが、大正解だった。もっとこの世界観に浸っていたくなって、既刊が6冊もあることに感謝した。
もう一作「百貨の魔法の子どもたち」は本屋大賞ノミネートの『百貨の魔法』番外編。同じ風早の街に存在する「星野百貨店」に潜む、願いをかなえてくれる猫にまつわる物語だ。たそがれ堂と交錯する世界で生まれるもう一つの奇跡。これもまた本編を知らずともじんわりさせられる。日々に少し疲れたときこそ触れたくなる、温泉につかるようなあたたかさをもつ一冊だ。
文=立花もも
【村山早紀さんインタビュー】
「閉店が近いのでは?」現実の百貨店の厳しい状況から、街の人びとに愛されてきたデパートを守ろうと奮起する『百貨の魔法』