大好きな小説の続編、あなたは読みたいですか? 物語の先を生み出す人たちの物語
公開日:2018/10/4

私は、お気に入りの作品がきれいに完結したとき、無理にその続きを読みたいとは思わない。なぜなら、その作品が自分の中で文句のない完璧なものであってほしいからだ。2年前に刊行された相沢沙呼さんの『小説の神様(講談社タイガ)』(講談社)も、私の中ではそれくらいのかがやきを持っていた。
同作は、学生のうちに作家デビューしたものの、作品が酷評されてばかりの主人公・千谷一也(ちたに いちや)が、同い年の売れっ子作家・小余綾詩凪(こゆるぎ しいな)に出会い、合作小説をつくるというストーリー。それぞれ壁にぶつかっているふたりは、「どうして物語を書くのか?」という問いに向き合い、最後にはひとつの答えにたどり着く。それは、小説に救いを求める人間にとって、希望に満ちた結末だった。
だからこそ、続刊『小説の神様 あなたを読む物語(上)(下)(講談社タイガ)』(相沢沙呼/講談社)が発表されたとき、私は動揺した。あんなにきれいに終わった物語の先に、著者はこれ以上何を書くというのだろうか。下世話な話だが、『小説の神様』はよく売れたと聞いていたから、“売れるから”という理由で無理やり続きを書いているのではないか…と邪推したりもした。だが、上巻を読み進めていけば、著者が続刊に込めたものが少しずつ見えてくる。
物語の冒頭、ある意味では前作を否定するような、残酷な現実がふたりに突きつけられる。前作でふたりがあれほど力を込めた合作小説は、ネット上で読者の心ない批判にさらされていた。「主人公が繊細すぎて苛立つ」「物語としてどこを楽しんだらいいかまるでわからない」――等々。一也は、自分たちの作品が読者に響かなかったことを知り、再び自分が書くべき物語を見失う。一方の詩凪は、合作小説の続編のプロットを練りながらも、その“意義”に思い悩む。前作で問題に決着をつけ、成長した主人公の物語を、無理やりこじ開ける必要はあるのか…。詩凪の葛藤は、『小説の神様』の続刊を書く著者自身の苦悩とも重なる。
さらに、続刊では“物語を読む”側の視点が大きく取り上げられる。一也と同じ文芸部の成瀬は、すばらしい物語に囲まれながらも、卑屈で勇気のない、まるで変わらない自分を嘆いていた。それゆえに、「どうして物語を読むのか?」という問いにぶつかっている。
「どうして物語を書くのか?」
「どうして物語を読むのか?」
このふたつの問いは、表裏一体のものだ。著者は、主に“物語を書く”側からみた前作を再構築し、本作ではより多層的な人間と物語の関係を描こうと試みている。物語と関わりながら生きている誰もが、この小説の一部だといえよう。その読者である私は、最後に成瀬が見つけた答えをずっと胸に秘めながら、これからも小説を読むだろう。だって、小説が好きだから。
文=中川 凌