入社した有名企業が「ブラック」だったら? 会社に殺される前に確認したいポイント
公開日:2019/5/20

上司から無理やり目標を押しつけられ、人員は減らされ、あげくに生産性を引き上げろ、残業はせずに売上を死守しろ、と鼓舞される――。
日本のどこかのブラック企業の話ならいざしらず、これがアメリカの企業の話だと聞くと驚く人も多いかもしれない。日本人からすると、欧米は個人の権利意識が強く、「社畜」などという言葉とは無縁のライフスタイルがあるようなイメージが強い。だが、実際には日本と変わらない、いやそれ以上の過酷な職場環境で働いている人は多く、体や心を壊して退職を余儀なくされたり、過労死やストレスからの自殺が後を絶たなかったりするという。
そんなアメリカの過酷な労働環境とそれが社会にもたらす弊害について、膨大なデータをもとに指摘するのが『ブラック職場があなたを殺す』(ジェフリー・フェファー:著、村井章子:訳/日本経済新聞出版社)だ。著者はスタンフォード大学のビジネススクールの教授で、専門は組織行動学。著書も多く、これまでに『「権力」を握る人の法則』『悪いヤツほど出世する』などが邦訳されている。
■ブラック企業は日本だけでなく「グローバル化」している
本書によれば、企業のブラック化はアメリカや日本だけの話ではなく、いまや全世界共通の傾向だという。原因は激しいグローバル競争と、それに対応するための極端な効率化だ。結果、働く人の心身の健康は蝕(むしば)まれ、アメリカではそれに対応するための医療費が年間2000億ドルも発生している。社員が心身を病んで仕事ができなくなることは、所属する企業にとってもコスト増につながる。アメリカの企業はそのために年間3000億ドルも支出しているという試算もある。それでも企業は、目先の利益を追い求めるために社員の酷使と使い捨てをやめられないのだ。
近年、世間体を気にする部分もあろうが「自然環境の持続可能性」への貢献を社是とする企業は多い。だが、そういう企業の大半は「人間の持続可能性」など気にも留めていない…という本書の指摘は非常に重い。
とはいえ、企業も何の対策もしていないわけではない。従業員に運動や禁煙、健康な食習慣、アルコール摂取の制限を奨励するとともに、血圧やコレステロール値を正常値に維持管理することを求めるウェルネス・プログラムを導入している企業は多い。従業員の福利厚生のため、社内にフィットネス・ジムや昼寝スペースを用意したり、スイーツ食べ放題のサービスなどを提供したりする会社もある。
だが、これらの企業の施策は、ほぼ何の効果も挙げていないという。たしかにそうだろう、時短と生産性向上という背反する目標の強制や無理なコストカットなど、根本的な労働条件の劣悪さが改善されていないのに、健康管理を押しつけられたり、昼寝やスイーツを提供されたりした程度で、働く社員のストレスが軽減されるはずもない。
■もし自分がブラック企業に入ってしまったら…?
では、もし自分がそのようなブラック企業に入社してしまったら、どうすればいいのだろうか? 本書は、社員の健康と幸福を犠牲にするような経営判断が社会にどれほどの費用負担を強いているのかを明確にする。また、そのような「社会的公害企業」を公表するなど、ブラック企業への対策をいくつか提案をしているが、社員個々人にできることはただひとつ――そんな企業を「辞める」ことだけである。
「せっかく有名企業に入ったのに」とか「自分のがんばりが足りないのでは…」などとよけいなことは考えず、心身の健康を損なってしまう前に、さっさと辞めるべきだという。
自分の勤めている会社がブラックかそうでないかを判断するのは簡単だ。コストや労働時間、人員を増やせば、それだけで単純に業績が上がるものではない。だからといって、それらを減らせば確実に社員の生産性は低下し、商品やサービスのクオリティは劣化する。必然的に業績も下がる。この当たり前すぎる“単純な事実”を経営者が理解していないとしたら、その企業はブラックと断言しても間違いではないだろう。
文=奈落一騎/バーネット