少女マンガの革命『萩尾望都と竹宮惠子 大泉サロンの少女マンガ革命』マンガ よりもドラマチックな出会いと別れ
公開日:2020/4/11

筆者が小学生だった1990年代は、マンガ雑誌の全盛期で、クラスの女子のほとんどが『りぼん』や『なかよし』を読んでいました。マンガ家を将来の夢に挙げる子もたくさんおり、少女マンガを読むことは、ごく普通のことだったのです。
しかし、これが当たり前ではない時代もありました。『萩尾望都と竹宮惠子 大泉サロンの少女マンガ革命(幻冬舎新書)』(中川右介/幻冬舎)は、不遇だった少女マンガ家を、職業として確立させた2人の天才の歩みを記した1冊です。
遡ること60年前。1960年の日本には、女性のマンガ家は数えるほどしかいませんでした。少女マンガの作品自体もまだまだ少なく、そのうえ「少年を主人公にしてはいけない」「SF&時代モノはダメ」「キスシーンはさりげなく」など、あらゆる制約があったのです。なんとかデビューしても、2、3年で使い捨てられることも珍しくなかったといいます。
少女マンガ界の巨匠である萩尾望都先生、竹宮惠子先生が少女マンガ家を志したのは、そんな時代でした。
大泉サロンに集まったマンガ家たち
編集者を介して出会った2人は、東京都練馬区のキャベツ畑の近くにあった長屋を借りて、共同生活を送るようになります。通称「大泉サロン」。しかしそこは、サロンとは名ばかりの、古く汚い長屋。そんな場所で、萩尾先生と竹宮先生はマンガを描き、徹夜でマンガ議論を戦わせる日々を送っていたのです。
2人に会うため、わざわざ遠くからサロンにやってくる人も多く、その中には、山岸凉子先生、もりたじゅん先生、坂田靖子先生といった、錚々たるマンガ家たちもいました。
本書では、当時の大泉サロンの暮らしぶりが、膨大な資料やインタビューをもとに鮮明に書かれています。
萩尾先生のマンガが描いても描いてもボツになっていたこと、竹宮先生の代表作でBLの起点ともなった『風と木の詩』が編集者から突き返されていたことなど、今では信じられないエピソードの数々。巨匠たちにも、報われない時期があったのです。
そんな苦しい時期を経験しつつも、2人は順調にキャリアを積んでいきます。
サロン解体の裏にあった苦悩
手塚治虫らマンガ家たちが居住したことで有名なトキワ荘は、30年近くマンガ家たちを支えましたが、少女マンガ家たちのコミューンでもあった大泉サロンは、わずか2年で終わりを迎えます。
あるときから竹宮先生はスランプに悩むようになりました。思うように作品が生み出せず苦しむ一方で、萩尾先生は自身の代表作であり、不朽の名作『ポーの一族』をスタートさせていました。竹宮先生は、当時の心境をこう振り返っています。
【<どうして萩尾さんは、あれだけのものを描けるのか。どうして自分には描けないのか。>】
【<異なる空間の中にいれば、少しは救われるかもしれないと思い始めるのに時間はかからなかったと思う。>】
【そしてーー<どうしようもなくなった私は、萩尾さんに「距離を置きたい」という主旨のことを告げた。>】
サロン解体までの経緯は、マンガよりもドラマチックで、切ないものだったのです。
今ある少女マンガの表現も技法も、ほとんどが1970年代に生まれたと言われています。その中心に萩尾先生と竹宮先生がいました。驚くべきは、革命の渦中、2人はまだ20代前半。その若さで、少女マンガの歴史をガラリと変えてしまったのです。
少女マンガが市民権を獲得するまでに、どんな戦いがあり、そして最後にはどんな別れがあったのか。その歴史に触れてみませんか?
文=中村未来(清談社)
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